第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――廃トンネルの噂
「ここから車で一時間ほどの場所に、使われなくなったトンネルがあります。全長は約五百メートル。十五年前に新しいバイパスができてから、完全に放置されているそうです」
「そのトンネルで、何かあったのか?」
「いえ、特に大きな事故があったという記録はありません。ただ……」
圭吾は少し言い淀んだ。
「地元では昔から、『あのトンネルには手を出すな』と言われていたそうです。理由は誰も知らない。ただ、戦前からそう言い伝えられていたと」
「戦前から……」
私は腕を組み、考え込んだ。古いトンネル。
曰く付きの言い伝え。
そして紫服の女。
何かが引っかかる。
「宮下君たちは、なぜそこに行った?」
「若い連中の度胸試しです。心霊スポットとして、ネットで有名らしくて」
「ネットで……」
現代の若者らしい動機だ。
しかし、その結果がこれだ。
四人のうち三人が昏睡状態。
一人は錯乱。
ただの心霊スポットでは済まない。
「状況は良くないな」
私は圭吾に向き直った。
「今から準備をして、今夜あのトンネルに行く」
「今夜ですか?」
「ああ。時間を置けば置くほど、向こうの力が増す。それに魂のない三人を放置するのは危険だ。下手したら、パラサイトグリードの餌として、二度と助けることができなくなる」
「わかりました。準備を手配します」
「頼んだぞ。その廃トンネルで会おう」
「分かりました」
圭吾は力強く頷いた。
私は宮下にもう一度目をやりそれから地下室を後にした。
「さてと、一度店に戻るか」
今夜の戦いに備えて準備を整えなければならない。
そして、あの鍵のことも頭に入れておかねばならない。
圭吾の腕が衰えていなければ、あの鍵を彼に渡してもいいだろう
私は何となくその時が近づいているような気がして、一度鍵の入ったポケットを触った後、車を走らせた。
店に戻った私はまず柿谷に電話をかけた。
コール音が数回響いたあと、聞き覚えのある軽い声が返ってくる。
「もしもし翔太? どうした?」
「柿谷頼みたいことがある。白鷺会の若い連中が肝試しで廃トンネルに行ってな。そこで心霊現象に遭ったらしい。お前、あのトンネルについて何か知ってるか?」
「あー……あの廃トンネルか。俺もネットで噂になってたのは知ってるよ。ちょっと待ってな、今手元の資料を漁ってみる」
受話器の向こうで紙をめくる音がする。
しばらくして柿谷が戻ってきた。
「あったあった。まず昔の噂な。あのトンネルがまだ現役だった頃の話だ。戦時中にあのトンネルは軍用物資の運搬に使われてたらしい。でな、終戦間際に一台のトラックがトンネル内で故障して立ち往生した。運転手は助けを呼びに行ったんだが、戻ってきたら積んでた物資が全部消えてたんだと」




