第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――紫服の女
そこは本来なら物置や倉庫に使われるような場所だ。
しかし今は、四人の若者が横たわる臨時の病室と化している。
鉄の扉を開けるとひんやりとした空気が私の頬を撫でた。
消毒液の匂いがかすかに漂っている。広さは二十畳ほどだろうか。天井から吊るされた裸電球が、頼りなげな光を落としていた。
部屋の中央に四つの簡易ベッドが並んでいる。
そのうち三つには、昏睡状態の男性が横たわっていた。年齢は二十代前半から後半といったところか。どの顔も青白く、呼吸は浅くまるで魂が抜け落ちたかのようだ。
そして四つ目のベッドには誰もおらず、代わりに部屋の隅で一人の男が膝を抱えて震えていた。
歳は二十歳ほどだろうか。
痩せた体をさらに小さく丸め、ぶつぶつと何かを呟いている。
「彼が錯乱状態の男です。名前は宮下」
圭吾が低声で教えてくれた。
私は宮下にゆっくりと近づいた。彼は私の気配に気づくと、びくりと体を震わせ顔を上げた。その目は充血し、瞳孔は異常に開いている。恐怖に染まりきった顔だった。
「宮下さん、少し話を聞かせてくれないか?」
私がしゃがみ込み彼の肩に手を置き、『浄化の炎』を使った。
炎は激しく燃えて、宮下が抱える負の感情を焼き尽くした。
「あ、あれ、お、俺は……」
「正気に戻ったか」
「わ、若!」
これで彼から情報が得られるだろう。
「宮下さん。私は霊能力者の紅と言います。あなたが廃トンネルで体験したことを話してくれますか?」
私が穏やかな声で話しかけると、彼は表情をこわばらせた後、その時の恐怖が蘇ったのか、すぐに震え出し首を横に振る。
「……お、女」
「女? 特徴は?」
「む、紫服の女。ぶ、不気味な、笑いをしながら、襲ってきて」
頭を押さえて、その時の出来事を絞り出していく宮下。その断片からでも彼がよほどの恐怖を体験したことは伝わってくる。
「襲ってきて、その後は?」
「女に触れられたら、みんな急に倒れて苦しみ出して……そうだ。口から何か白い何かが出てた」
「白い何か⁉」
私は立ち上がり、寝かされている三人へ近づき、『浄化の炎』を使用する。
「なっ、炎が燃えない。師匠、これはまさか?」
「ああ。魂がない。感情も司る人間の心である魂がないのなら、『浄化の炎』は燃えることはない。どうやら、その紫服の女が奪っていったようだな。ならば、あまり時間をかけてはいけないね」
私は険しい面持ちで圭吾に向き直った。
「廃トンネルについて、詳しく教えてくれ」
圭吾は頷き、壁に掛けられた古い地図を指さした。




