第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――廃トンネル
「それで、私を呼んだ理由は何だ。まさか世間話がしたいだけじゃないんだろ」
圭吾は一瞬だけ視線を落とし、それから私の目をまっすぐ見て言った。
「若い団員たちが、肝試しで廃トンネルに行ったんです。そこで妙な心霊現象に遭いまして」
「心霊現象?」
「はい。連中の話によると、トンネルの中で女の声が聞こえたとか、何かが追いかけてきたとか。最初はただの思い込みかと思ったんですが……」
圭吾は立ち上がり机の上から一枚の写真を取って戻ってきた。そこには四人の若い男たちが写っている。肩を組み笑っている姿は、どこにでもいる若者たちだ。
「こいつらが肝試しに行った四人です。現在三人が昏睡状態で、一人は錯乱状態です」
「錯乱状態?」
「はい。何かにおびえ続けていて、夜も眠れない。今は地下の一室に隔離しています」
私は写真を受け取り、じっと眺めた。
男たちの笑顔の裏に、かすかな黒い影が写り込んでいる。
一般人には見えないだろうが、私にはわかる。これは――
「圭吾、お前も見たんだろ。こいつらに纏わりついていたものを」
「ええ。俺も感じました。あれは普通の霊じゃない。俺の経験上、あれはパラサイトグリードだと思います」
「だろうな」
私は写真をテーブルに置き、腕を組んだ。
「半霊体ならお前一人でも対処できるだろ。だが受肉態となると、ディメンダムなしでは厳しい。だから私を呼んだと」
「その通りです。師匠の力を借りたい」
圭吾は深く頭を下げた。若頭という立場になってなお私に対しては昔と変わらない態度だ。それが彼なりの敬意の示し方なのだろう。
「わかった。だが条件がある」
「条件?」
私は背もたれに寄りかかり、圭吾の目をじっと見据えた。
「お前もついてこい。今回の事件はお前の舎弟たちの話だ。他人任せにするな」
圭吾は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに口元を引き締めて頷いた。
「当然です。最初からそのつもりでした」
「ならいい。それともう一つ」
私は内ポケットにしまった鍵に触れた。
渡すのはまだ早い。
今ここで渡せば、彼の気が緩むかもしれない。
あくまでこれは最後の切り札だ。
「何かありますか?」
「いや……それはまた今度話すわ。今はまず、錯乱状態の男に会おうか」
「わかりました。こちらです」
圭吾が立ち上がり、私を案内する。
私は鍵の存在を胸の奥にしまい込みながら彼の後を追った。
地下室へと続く階段を下りながら、私は嫌な予感を覚えていた。
白鷺会の本部事務所の地下。




