第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――プロローグ
十二月の半ば。
街はすっかりクリスマスムードに包まれていた。
アンティーク紅の店内は相変わらず静かなものだが、窓から見える通りには華やかなイルミネーションが輝いている。
私はカウンターの奥で仕入れたばかりの古い置時計を分解していた。
十九世紀末のフランス製で、ゼンマイが劣化して動かなくなっている。部品を一つ一つ丁寧に磨きながら、修理の手順を頭の中で組み立てていく。
「翔太、コーヒー淹れたよ」
カナリアが小さな手でマグカップを運んでくる。
彼女の体よりも大きなカップをふわりと浮かせながら、器用にカウンターまで届けてくれた。
「ありがとう」
私はマグカップを受け取り、一口すする。深煎りの苦みが疲れた頭に染みわたる。
「今年もあと二週間か。早いものだな」
「そうだね。翔太は大掃除とかするの?」
「さあ、どうだろうな。店の整理はしているが、家の方はあまり……」
そんな他愛のない会話を交わしながら、私は再び置時計の修理に取りかかった。
その時、店のドアベルがカランと鳴った。
「すみません、紅さんはいらっしゃいますか」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはスーツ姿の男が立っていた。四十代半ばの落ち着いた雰囲気で、眼鏡の奥の瞳は鋭く光っている。
警察庁の特別機関『心霊対策課』に所属する萩森という男だ。
「萩森さん、お久しぶりです」
私は工具を置き、カウンターから出て彼を応接用のソファへと案内した。
「突然お邪魔して申し訳ありません」
「構いませんよ。今日はどのようなご用件で?」
萩森は鞄から封筒を取り出し、私の前に差し出した。中には一本の鍵が入っているようだ。
「これを、ある方に渡していただきたいのです」
私は封筒を開け、中身を確認する。
古びた金属製の鍵。見覚えのある刻印が施されている。これは――
「これは……修復中だったディメンダムの起動鍵ですね。ついに完了したんですか」
「はい。先月ようやく修復が完了いたしました。そして、その契約者に渡してほしいのです」
私は鍵を封筒に戻し、萩森に押し返した。
「なぜ私が? あなた方が直接渡せばいいでしょう」
萩森は困ったように眉を下げた。
「警察の一員である我々が、その場所に行くのは問題があるのです」
「問題?」
私は首をかしげたが、すぐに彼が何を言いたいのか理解した。
「それに……その彼から、あなた指名で依頼が来ているのです」
「私指名で?」
「はい。『アンティーク紅の紅翔太に来てほしい』と。依頼料はいくらでも払うと」




