第五話 森山花蓮の受難――エピローグ
彼女はようやく心からの笑顔を見せた。
それは刑事としての顔でもなく、妹を心配する姉としての顔でもない。
ただ一人の人間としての、穏やかな笑みだった。
「それじゃあな翔太。俺も原稿をまとめないといけない。今回の話も、ぼかしまくって記事にするぜ」
「ほどほどにな」
「わかってるって」
柿谷と花蓮は揃って帰っていった。私は美花を連れて自分の車へと向かう。
車のエンジンをかけ、シートに体を預けると一気に疲れが押し寄せてきた。
「ふう……」
『お疲れさま、翔太君。今日は本当に大変だったね』
「そっちもね。無事にいい結末を迎えることができてよかった」
ハンドルを回して車を発進させる。
街の明かりが流れていくのを眺めながら、夜の街を走る私は今回の事件を振り返っていた。
ディザスター。
『恐怖』を司る上位のパラサイトグリード。彼は今回、杏奈という少女の霊に寄生させたパラサイトグリードを使って、またしても私を試してきた。いや、試すというよりは明らかに私を陥れようとしている。
(あの野郎……今度こそ必ず倒す)
私はハンドルを握る手に力を込めた。
神様が予言した二つの内、地を這う者である美花は目覚めた。
となると、森を駆ける者もいずれ目を覚ますだろう。
そうなれば、こちらの戦闘力はアップし、ディザスターが来ても難なく対応できるはずだ。
車は夜の闇を切り裂くように走っていく。
明日からまた、普通の日常が始まるだろう。
だが今は少しだけ、この静かな夜の時間を味わっていたかった。
親子の魂が安らかに眠れるように、そしてこれから立ち向かう新たな戦いへの決意を胸に。
私はアクセルを踏み込んだ。




