第五話 森山花蓮の受難――強敵
美咲が急に苦しみだす。彼女の苦しみに呼応するかのように、パラサイトグリードの体から突如として人形が突き破って現れた。それは美咲が杏奈にあげたあの人形だった。
『あ、杏奈』
人形は小さな手をかざし、紫色の防御膜を展開する。
「なんだと!」
『裁きの雷光』は防御膜に直撃し、激しい閃光を放った。しかし次の瞬間、信じられないことが起きた。光のビームが跳ね返され、こちらに向かって反射してきたのだ。
『危ない!』
ディストレイが咄嗟に横っ飛びした。
反射された光のビームは、私たちがさっきまでいた空間を切り裂き、背後にあった枯れ木の幹を粉々に砕いた。
「うわあっ!」
コクピットが激しく揺れる。
私は操縦桿を握りしめ体を支えた。
「今のは……反射したのか?」
『ああ。あの人形が防御膜を展開し、我々の攻撃を跳ね返したのだ。弾丸は勢いを殺され弾かれて無効。ビームは防御膜で反射される。かなり厄介な能力を持っているようだ』
「くそっ……あの人形が鍵か」
私は態勢を立て直し杏奈だったものを睨みつけた。
人形は依然として紫色の防御膜を展開している。
その奥で、無数の目がぎょろぎょろと動いていた。
『杏奈! やめて! お願い!』
コクピットの中から、苦しむ胸を右手で抑えながら美咲が叫ぶ。
しかしその声は届かない。
娘だったものはもはや母の声を認識することすらできないのか、それとも拒絶しているのか。咆哮だけが返ってきた。
『主よ、どうする?』
ディストレイの声が緊張を帯びる。
「あの人形をどうにかしないと、まともに攻撃できないな」
『おそらくあの人形には、美咲殿の魂の半分が入っている。それが防御膜の核になっているのだ』
ディストレイの分析に、私は歯噛みした。
「つまり、美咲さんを傷つけずにあの人形を無力化しないといけないってことか」
『ゴホゴホ、申し訳ありません』
「美咲さん⁉」
『何とか止めようとしたのですが、あの子の想いが強すぎて、私では制御できず……』
「大丈夫です。貴方は自分の心配をしてください」
人間であれば、『浄化の炎』で癒してあげることができるが、美咲は霊でしかも魂の半分がない状態だ。今、彼女に炎を使えば、すぐに成仏してしまう。
そうなれば、杏奈との再会は叶ことができない。
つまり、美咲には自力で頑張っていかなければならないのだ。
『主よ、難しいがやるしかない』
私は操縦桿を握り直し改めて杏奈だったものと対峙した。
人形の紫色の防御膜が、不気味に輝いている。




