第五話 森山花蓮の受難――無縁仏の墓跡地
美咲はおずおずと一歩を踏み出した。
そして、自分が動けることに驚いたように、小さく息を呑んだ。
『本当に……動けるんですね』
「言ったでしょう。貴方はもう自由だ」
美咲は涙を拭い、私の隣に並んだ。
その足取りはまだおぼつかないが、確かに前へと進んでいる。
時刻は十九時四十分を過ぎている。
向こうまでの距離を考えるとギリギリだ。
「頼んだぞ、美花」
花蓮を護衛しているであろう、美花へ念じるように呟く。
もし花蓮が杏奈と対峙することになれば、美花の存在は花蓮にとっての最後の砦となる。
杏奈の攻撃力は未知数ではあるが、美花であれば花蓮を確実に守護してくれるはず。
その間に、私が無縁仏の墓で杏奈を止めればいい。
私は車に乗り込みエンジンをかけた。
美咲は助手席に座り、窓の外を見つめている。その横顔は、どこか安らかだった。
(全てを終わらせる。この悲劇も、ディザスターの目論見も)
アクセルを踏み込み、車は夜の街を走り出した。
無縁仏の墓跡地。現在はただの空き地だ。
長年人の手から離れたこの場所は、広大な土地に成長した草花がはびこり、夜の闇と相まって異様な雰囲気を漂わせている。街灯もまばらで月明かりだけが頼りだった。
私は車を降り、草むらを掻き分けながら奥へと進んだ。
胸の奥で時間だけが刻々と過ぎていくのを感じる。
「くそ……早く見つけないと」
時刻はすでに七時五十九分。
もはや杏奈が花蓮を襲う結果は避けられそうにない。
美花が時間を稼いでくれている間にどうにかしなければ。
「美咲さん娘さんの遺骨がどこか分かりますか?」
美咲は左目を抑えながら苦しそうに答えた。
『無縁仏の墓には大きな樹木が九つあります。杏奈の遺骨は、入口から数えて四番目の樹木の下に……』
「大丈夫ですか?」
『あの子が私を使っています。なので、その反動が……』
魂の半分は人形へ入れられていると言っていた。
人形を使っているということは戦闘が始まってしまったか。
『私はいいのであなたは早く杏奈を……』
「わかりました」
私は邪魔な草をかき分けながら四番目の樹木を探す。
視界を遮る草の高さは腰ほどもあり一歩進むごとに葉が肌を擦った。
虫の声もなくただ風が草を揺らす音だけが聞こえる。
『あれだ、主』
ディストレイの声に誘われ私は一本の大きな樹木に近づいた。
周囲の樹木よりも一回り大きく幹には蔦が絡みついている。そして確かにその根元からは禍々しい負の念が溢れ出していた。目には見えないが肌がピリピリと粟立つ。




