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第五話 森山花蓮の受難――悲しい過去

『あの日も、杏奈はここにいました。いつものように、ブランコに乗って。私の帰りを待っていたんです』

 美咲の声が、わずかに震えた。

『私は仕事が長引いてしまっていつもより遅くなってしまいました。急いで帰ってきたんです。杏奈に約束したプリンを買って。でも……』

 そこで美咲は言葉を切った。私は、彼女の話の続きをじっと待った。

『その日は、大雨でした。視界が悪くて。私、信号を渡ろうとして……トラックが、私を轢いたんです。トラックはそのまま川へ落ちて……』

「それで、あなたは……」

『はい。私は、遺体も残りませんでした。即死だったと聞いています』

 美咲の言葉に私は息を呑んだ。

 つまり彼女は事故で亡くなったのだ。

 しかし、なぜ彼女の霊がこの公園に縛られているのか。

 そして、なぜ杏奈の霊があのマンションに出るのか。

『杏奈は、私が死んだことを知りませんでした。私は、約束を破ってしまったんです。プリンを持って、帰ってくるはずだったのに』

 美咲は、深くうつむいた。

『杏奈は、あの日も、このブランコに乗って私を待っていました。大雨の中、ずぶ濡れになって。それで……風邪をひいて、高熱を出して。近所の人が見つけた時には、もう……』

「まさか……」

『杏奈も、私の後を追うように亡くなりました。一人ぼっちで、雨の中で待ちながら』

美咲の霊がかすかに揺らめいた。彼女の存在そのものが哀しみに震えているかのようだった。

『杏奈は、無縁仏の墓に埋葬されました。親戚が誰もいなかったからです。私の両親も、旦那の両親ももうこの世にはいませんでしたから。小さな女の子が、一人で知らない人たちの中に埋められてしまったんです』

 私は、拳を握りしめていた。

 なんという悲劇だろうか。

 母を待つあまりに命を落とした娘。

 娘を迎えに行く途中で命を落とした母。

 二人の願いが交わることなく、すれ違い続けてきたのだ。

『私の霊は、この公園に縛られていました。杏奈を探して、でも見つからなくて。ずっとずっと、ここで待ち続けていました。あの子が、いつか帰ってくるんじゃないかって』

「そして、杏奈は……」

『杏奈の霊は最初、無縁仏の墓の敷地内で私を探して彷徨っていました。そして無縁仏の墓が壊されて、墓石や土がマンションの建材に使われました』

「なるほど。だから、あなたの娘さんはあのマンションに出るんですね」

『それは半分正解ですが、半分違います』

「それはどういうことですか?」


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