第五話 森山花蓮の受難――霊の正体
「ならばまずは正気に戻ってもらおう」
私は右手に『浄化の炎』を発動させた。
真紅の炎が暗闇を照らす。
襲いかかって来る女性に向かって私は炎を押し当てた。
『ぎゃあああ!』
女性が断末魔の叫びを上げる。しかし私は手を離さない。
女性に纏わりつく負の念だけを取り除くよう炎の出力を調整していく。
やがて黒く染まっていたワンピースが元の赤い色に戻り、彼女の表情からも凶暴さが消えていった。
先ほどとは打って変わって、そこには悲壮感に満ちた美しい女性が立っていた。
「あの……少しお聞きしたいのですが」
私は彼女に声をかけた。彼女はまだぼんやりとしていたが、ゆっくりと私の方を向く。
『あなたの雰囲気……よかった。ここに来たということは、私が送った写真を正しく理解してくれたのですね』
「写真を送った? つまり、私のポケットに入っていた写真は、あなたが?」
『はい。あなたなら、あの数字の意味に気づいてくれると信じていました』
「一体何のために?」
私の問いに、彼女は深くうつむいた。そして、絞り出すような声で言った。
『娘を……止めて欲しいのです』
「娘?」
私は彼女の言葉に思わず聞き返した。
「それは、あなたと同じ赤いワンピースを着て、人形を抱いていた少女のことですか?」
『そうです。杏奈を……』
「杏奈……」
私はその名を胸の中で繰り返した。
あの人形を持った少女の正体。
そして、この女性の正体。
物語の輪郭が、ようやく見え始めてきた。
『私は春野美咲と言います』
女性は静かに語り始めた。
その声には、長い年月を経てなお消えぬ哀しみが滲んでいた。
『旦那は杏奈を生んでしばらくしてから交通事故で亡くなりました。私たちは小さなアパートで細々と暮らしていました』
美咲の言葉に私は静かに耳を傾けた。彼女の目は遠い昔を見つめている。
『杏奈は、いつもこの公園でブランコに乗りながら、私の帰りを待っていました。私は昼はスーパーのレジ、夜は居酒屋で働いていました。旦那が亡くなってから、私一人で杏奈を育てるために必死でした』
美咲は小さく息を吐いた。
『杏奈は、寂しい思いをさせてしまったけれど、いつも笑っていました。「ママ、今日もお仕事頑張ってね」って。ブランコに乗りながら、手を振って見送ってくれたんです』
その光景が、私の脳裏に浮かぶ。
小さな女の子が、ブランコに揺られながら母親の帰りを待つ姿。
人形を抱きしめて。




