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第五話 森山花蓮の受難――安堵

 隣で柿谷が安堵したように息を吐いた。

「柿谷さん、知っているんですか?」

「森山さん、彼女は美花。翔太の仲間です。というか、翔太の家に住み着いてる守護蛇というか……まあ、味方です。心強いですよ」

『初めまして、森山さん。美花です。翔太君の指示であなたを守りに来ました。以後よろしくお願いします』

 大蛇が私の顔を小さな舌でそっと舐めた。くすぐったいような、温かい感触。私は混乱しながらも、彼女が私を守ろうとしてくれていることを感じ取った。

「何だ、お前は? 私の邪魔をするな!」

 赤いワンピースの女が叫ぶ。

 その体を突き破って八本の黒い手が現れ、美花に向かって一斉に襲いかかった。

 しかし美花は動じなかった。

 鼻でゆっくりと息を吸い込み口を開けた次の瞬間、白い光が放たれた。その光は襲い掛かる八本の黒い手を吹き飛ばし、そのまま女の上半身までも消失させた。

『どうかしら?』

「そんなもの通用するか!」

 負の念が霧のように集まり、消えていた上半身は再び元の状態に戻る。

『やはり、あのちびっこの方をやらないといけませんかね』

 美花の赤い瞳が女の背後をじっと見つめる。私には見えないが、彼女にもまた人形を持った小さな女の子が見えるようだ。

「お前も嫌な奴だ。必ず殺してやる」

 今度は赤いワンピースの女性が四人現れ、全員の体から黒い手が八本突き破って出ている。

『望むところです。かかってきなさい』

 美花が口を大きく開けて威嚇し、霊と大蛇の戦いが今まさに始まろうとした。

 その時だった。

「ぎゃあああ!」

 突然、女性たちの悲鳴が部屋に木霊した。

 そこで初めて私の目に映った女の子の姿。

 その子はなんと炎に身を焼かれてもだえ苦しんでいるのだ。

「これは……一体――」

 その光景を最後にすべての怪異は消えた。

 赤いワンピースの女も、黒い手もそして異空間に閉じ込められた部屋も、元の空きビルのエントランスへと戻っている。

「一体何が起こったの……?」

 私が呆然と呟くと、美花は静かに答えた。

『さっきのは『浄化の炎』ね。つまり、翔太君が何かしたんでしょう』

「紅さんが……?」

 私はスマートフォンを見た。

 着信はない。

 しかし確かに、紅翔太がどこかで何かをしたのだ。

 私を助けるために。

「よかった……本当によかった……」

 私はその場にへたり込んだ。

 緊張の糸が切れ、涙が溢れてくる。

 柿谷がそっと肩を貸してくれた。

『森山さん、よく耐えましたね。あとは翔太君に任せましょう』

 美花が私の体にそっと巻きつき、その白い鱗が月明かりに輝いていた。


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