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第五話 森山花蓮の受難――白き守護蛇、美花

「わかってます……! でも……!」

 私は周囲を見回した。

 このままでは戦闘に巻き込んだらまずい。ならば、人通りの少ない場所で待ち構えるのがいい。

「柿谷さん、あの空きビルに入りましょう。戦闘になった場合に備えて人目のない場所の方がいい」

「了解です」

 私たちは近くの空きビルへ向かいそのドアを開けて中に飛び込んだ。

 しかし次の瞬間私の目に飛び込んできたのは廃墟のエントランスではなく、見覚えのある部屋の光景だった。

「な……ここは……!」

「小野寺さんの部屋……!?」

 私たちは昨日まで捜査していた、あの七階の部屋に立っていた。

 テーブルには飲みかけのコーヒーカップ。壁には仕事のスケジュール表。そして寝室には、遺体が横たわっていたあのベッド。

「戻りましょう!」

 私は踵を返し入ってきたはずのドアを探した。しかし、そこにドアはなかった。

「嘘でしょ……」

 壁しかない。窓もない。完全に閉ざされた空間。

 ピピピピッ

 私のスマートフォンのアラームが鳴った。午後八時。タイムリミット。

 その瞬間、部屋の温度が急激に下がった。吐く息が白く染まる。そして、床から立ち上る黒い負の念と共に、あの女が現れた。

 真っ赤なワンピース。長い黒髪。青白い顔。そして、あの不気味な笑み。

「さあ、約束通り、あなたの命をもらうよ」

 女の声は部屋全体に木霊し、私たちの体を縛りつける。圧倒的な負の念の威圧に、指一本動かすことができない。

「くっ……体が……!」

 柿谷が歯を食いしばる。私も抵抗しようとしたが、足が床に張り付いたように動かない。

 女の体から黒い手が伸びた。

 まるで蛇のようにうねりながら、私の胸に向かって一直線に迫る。

 狙いは心臓。

 このままでは、本当に……

(終わり……なの……?)

 私が覚悟を決めたその時だった。

 バチンッ!

 黒い手は、私の胸に触れる寸前で何かに弾かれて消滅した。

「何……?」

 女の表情が初めて崩れる。

 苦々しい目線で、私の背後を睨みつけた。

「誰、あんた」

 その問いに応えるように、私の背後からゆっくりと姿を現したのは――純白の美しい大蛇だった。

 その体は私を守るようにとぐろを巻き、真っ赤な瞳を赤いワンピースの女に真っ直ぐ向けている。

 そして口を大きく開けて「シャアア!」と威嚇した。

 その音波が部屋中に木霊し、私たちを拘束していた負の念を一瞬で消滅させていく。

「こ、これは……?」

 私は呆然とその大蛇を見上げた。

 恐怖が消えていく。

 いや、恐怖だけではない。

 不安も焦りも絶望も、すべてが大蛇の存在によって癒されていくような感覚。

「そうか。翔太が言っていた護衛は美花のことだったのか」


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