第五話 森山花蓮の受難――知恵
会合は都心のホテルの一室で行われていた。
アンティーク・骨董品協会に所属する鑑定士や研究者、収集家などが月に一度集まり業界の情報交換や最近の発見について議論する場だ。
私は会合の席に着きながらも頭の中は三枚の写真でいっぱいだった。
ノートパソコンを開き、写真をデータ化した画像をぼんやりと眺める。30と54。そして真っ黒に塗りつぶされた写真。この数字が何を意味するのか。方角? 座標? それとも何かの暗号?
「紅さん、今日は珍しく上の空じゃないか」
隣に座った老舗の刀剣鑑定士が声をかけてくる。
「ええ、少し考え事が」
「ふむ。まあ、たまにはそういう日もあるわな」
彼はそう言って、自分の酒杯を傾けた。
会合が中盤に差し掛かった頃、見覚えのある姿が近づいてきた。
「翔太くん」
松山だった。
先月の旧家の依頼を回してくれた老鑑定士だ。彼は私の隣に座ると、申し訳なさそうな顔をした。
「先日はすまなかったのう。君に依頼を押し付けてしまって」
「いえ、結果的にあの依頼を受けてよかったと思っています」
「そうかね。何かあったのか?」
私は旧家の依頼で起きたことを、詳細は伏せながら簡単に伝えた。曰く付きの品々が蔵に納められていたこと、それを整理する必要があったこと。松山は私の話を聞きながら、何度も頷いていた。
「なるほど……。あの依頼、わしが行かなくて正解だったようじゃ」
「そうですね。松山さんが行っていたら、危なかったかもしれません」
「うむ……」
松山はしばらく考え込んでいたが、ふと私のノートパソコンの画面に目を留めた。
「おや、これは?」
「ああ、これは今調べている写真です」
「三枚とも数字が書いてあるな。30と54、それに真っ黒な写真か。これは何の数字じゃ?」
私は簡単に事情を説明した。
とある事件で見つかった写真で、数字の意味を調べているのだと。松山は写真をじっと見つめ、やがて顔を上げた。
「翔太くん、ちょっと待っておれ」
そう言うと松山は席を立ち、会合に集まっている他の鑑定士たちのところへ歩いていった。そして何人かに声をかけ、私のノートパソコンを持ってくるように促す。
「皆さん、ちょっと見てもらいたいものがあるんじゃ」
松山の呼びかけに刀剣鑑定士、陶磁器の専門家古地図研究家、古文書の解読を専門とする者など、様々な分野のエキスパートたちが集まってきた。
「ほう、数字の写真か」
「30と54……これは何かの番号かな?」




