第五話 森山花蓮の受難――捜査
店を出た私たちは、まずマンションの周辺を当たることにした。
「森山さん、まずどこから行きますか」
「そうですね……まずはマンションの管理人さんに話を聞いてみましょう。それから周辺の住人にも聞き込みを」
「了解です。俺も独自のネットワークで何か掴めるかもしれません」
柿谷さんはそう言いながらすでにスマートフォンを取り出し何人かにメッセージを送っている。オカルトライターとしての彼の人脈は、こういう時に心強い。
マンションの管理室は一階のエントランス横にあった。
管理人は六十代前半の小柄な男性で、私たちを見ると少し警戒した様子だったが警察手帳を見せると渋々といった様子で話を聞かせてくれた。
「小野寺さんは、このマンションに越してきてまだ半年ほどです。大人しい方で、特に問題を起こすような人ではなかったんですが……」
「最近、変わった様子はありませんでしたか?」
「うーん……そういえば、一ヶ月ほど前から少し元気がなかったように見えました。ゴミ出しの時に会っても、挨拶が上の空というか……」
「何か相談されたりは?」
「いえ、特に。あ、そういえば……」
管理人は何かを思い出したように、私たちの顔を見た。
「小野寺さん、先月、このマンションのことをいろいろ調べていたみたいなんですよ。この辺りの昔の話とか、昔の住人のこととか」
「昔の住人?」
「ええ。私も詳しくは知らないんですが、このマンションが建つ前ここには古いアパートがあったらしくて。その頃の話を聞いて回っていたようです」
このマンションが建つ前の古いアパート。
それは重要な手がかりかもしれない。
私は柿谷さんと顔を見合わせた。
「その古いアパートのこと、何かご存知ですか?」
「いえ、私はこのマンションが建ってから来たので……ただ、近所の古い喫茶店のマスターならこの辺りのことをよく知ってるかもしれません」
管理人はそう言って、マンションから徒歩五分ほどのところにある喫茶店の名前と場所を教えてくれた。
「行ってみましょう」
私たちはすぐにその喫茶店へと向かった。
昔ながらの純喫茶で、店内には古いジャズが流れていた。
カウンターの奥には七十代と思われる白髪のマスターが、黙々とコーヒーを淹れている。
「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
私が声をかけると、マスターはゆっくりと顔を上げた。その目は、長い年月を経てきた人のそれだった。
「警察の方ですか?」
「はい。実は、この辺りの昔のことについてお聞きしたくて」




