第五話 森山花蓮の受難――護衛
「さて、と」
私は写真をテーブルに置き、カウンターの奥からノートパソコンを取り出そうとした。
その時だった。
天井から、かすかな物音が聞こえた。
カサ……カサ……
何かが這うような音だ。
それは天井を伝い壁を伝い、奥の階段へと移動していく。
やがて音は階段を下り、家へと通じるドアの前で止まった。
ギィ……
ドアが少しだけ開き、隙間から何かが店内を覗いている。
「やぁ美花。いいタイミングで来てくれたね」
私はカウンター席からドア越しに声をかけた。
『……あの女性、嫌な気配を感じるけど?』
ドアの隙間から聞こえてきたのは、鈴を転がすようなそれでいてどこか妖しげな女性の声だった。
『あと、カッキーは相変わらずね』
「さっそくで悪いんだが、君に森山さんを守って欲しい。私はこれから出かけなきゃならないんでね」
『……分かったわ』
それだけ言うとドアの隙間から感じていた気配がすっと消えた。まるで、そこに最初から何もいなかったかのように。
『彼女がいれば安心だ』
ディストレイの声が私の脳裏に響く。
その響きには、確かな信頼が込められていた。
「ああ。美花なら任せられる」
私も同意した。
美花。彼女については、また別の機会に話すことになるだろう。
今はただ、彼女が森山花蓮を守ってくれるという事実だけで十分だ。
私はパソコンを閉じ立ち上がった。今日はアンティーク・骨董品協会の定例会合がある。業界の重鎮たちが集まる重要な会合だ。欠席すれば、今後の仕事に支障が出る。しかし頭の中は写真の謎と花蓮のことでいっぱいだった。
「行ってくる」
誰に言うでもなく呟き、私は店を後にする。
(夜八時までに、必ず答えを見つける)
私は心に誓い、会合の会場へと足を向けた。




