第五話 森山花蓮の受難――対策
私たちはマンションの前で別れた。
花蓮はタクシーに乗り、私は自分の車へと向かう。
車のドアを閉めた瞬間、私は大きく息を吐き出した。
「ディストレイ、聞こえていたか」
『ああ。厄介な相手だな』
「あの女……人形を抱いた子供。あれは何なんだ」
『わからん。だが、間違いなくパラサイトグリードの一種だろう。あの手紙の内容から推測するに、恐怖を糧にするタイプのようだ』
「恐怖を糧に……ね」
『ここは逃げさせてもらうよ! あははははは』
恐怖という言葉を聞くと、あの忌々しい化け物の耳障りな笑い声が頭の中で木霊する。
今度会ったときは、必ずこの世から消滅させて――。
『主よ。その気持ちは分らんでもないが、今は考える時ではないぞ』
「……そうだな。話の続きをお願いする、相棒」
『うむ。あの霊は除霊行為に対して敏感に反応している。それはつまり、自分を消そうとする行為に対して防衛本能が働くということだ。その結果、犠牲者の余命を縮めた』
「つまり、私が花蓮さんに憑いていたものを浄化したことも……」
『ああ。あの女は、森山花蓮を次の獲物に選んだ。そして君の浄化行為を「抵抗」とみなした可能性が高い。それともう一つ』
「何だ?」
『あの女が去り際に言った、『恨むなら、運命を受け入れずに抵抗した男にしなさい』という意味。あれは、除霊をしたことを言っているとみた。そう考えると今回、森山花蓮があの女と出会ってからの猶予が二日しかないのは――』
「なるほど。手紙には二日分早くなったと書かれていたな。その分が森山さんへ回ってきてしまった。だから、猶予が短いのか」
私はハンドルを握る手に力を込めた。
「明日の夜八時まで……たった一日しかない」
『その間に、奴の正体を見極めねばならんな』
「ああ。まずは店に戻って、柿谷に連絡だ。それからあの写真の数字についても調べ直す」
『それと、あの刑事を守るためにあの女への対策も考えなければならない』
「そうだな。それが一番重要だ」
私はエンジンをかけアクセルを踏み込んだ。明日の夜八時まで、時間は刻一刻と迫っている。
(絶対に、森山さんを救う。彼女には陽子さんという守るべき存在がいる。そして、彼女自身もまだ生きるべき理由がある)
車は夕暮れの街を走り抜ける。
私の頭の中では、すでに様々な可能性が渦を巻いていた。




