第五話 森山花蓮の受難――ピンチ
私は指をさす。
あの時と同じ不気味な存在が私を見てくる。が、今回は隣に彼がいるので、そこまで恐怖を感じることはなかった。
「あれが……」
「どうしたんですか? 紅さん」
「森山さん、あなたにはワンピースを着た女性に見える、と?」
「ええ。そうですけど……紅さんは違うのですか?」
「私には人形を持った子供に見えますね」
と答える。
何の冗談か、と思ったが彼は霊能力者。
何も持たない私とは違って、色んな不可思議なことが見えるのだろう。
「どんな風に見えているんですか?」
「小さな赤いワンピースを着てます。両手で女性の人形を抱いていますね。ただ、首から上が黒い霧で覆われているので、顔は分かりませんね」
「そ、そうなん――」
「お前、嫌な感じがする」
私の言葉を遮り、目の前の怪異が初めて口を開いた。
「だけど――」
女の姿がかき消えた。
「これは」
どうやら消えたのは姿だけではない。
廊下に満ちていた負の気配も、一瞬で消え失せたようだ。
そして私たちの耳に、女の声が直接響いた。
「その女は明日の夜八時までの命。恨むなら、運命を受け入れずに抵抗した男にしなさい」
その声は、まるで複数の人間が同時に喋っているかのような、不協和音だった。
「今の……聞こえましたか?」
私は彼を見る。
血の気が引く感覚が分かるので、多分私は青ざめた顔でいると思う。
「ええ。どうやら、あなたに宣告が下されたようですね」
「私の命が……明日の夜八時まで……?」
自分の声が震えているのが分かる。
まさか自分の命が危機に陥るとは思ってもいなかったのだから。
「紅さん、私……」
「大丈夫です」
彼は私の肩に手を置いた。
しかし、その手は強く握りしめられていた。
「大丈夫ですよね?」
私が問いかけると、彼は少し困った様子で見つめてくる。
「正直に言います。明日は、アンティーク・骨董品協会の会合があって戻るのが遅くなるんですよね」
「そ、そんな……」
私は金魚のように口をパクパクさせる。
これは非常にやばいのでは――と不安が押し寄せてくる。
「ですが、明日までに対策を取ります。明日の朝八時に、店に来てください。それまでにできる限りの準備をしておきます」
しかし、そこは頼もしい彼。
どうにかしてくれるそうだ。
「わかりました……」
であるならば、私は彼を信じましょう。
彼なら、必ずどうにかしてくれるから。
「では、今日はこれで。必ず助けます」
「……お願いします」




