第五話 森山花蓮の受難――合流
花蓮は息を整え周囲を注意深く見回した。
脱出口はどこにもない。
窓も開いていない。
しかし、女性の姿は完全に消えていた。
(どこへ……?)
その時、足元に何かが落ちているのに気づいた。
一枚の写真だった。
花蓮はしゃがみ込み、写真を拾い上げた。それは古いインスタント写真で、色褪せた画面にはかすかに数字が浮かび上がっている。
「4……」
そう呟いた瞬間、階段室の非常灯が一斉に消えた。
闇が一気に花蓮を包み込む。
彼女はとっさに拳銃のホルスターに手を伸ばした。
冷たい風が、どこからともなく吹き抜ける。
花蓮は暗闇の中で一人、不気味な笑い声がかすかに聞こえた気がした。
約束の午前十時森山花蓮がマンションの前で待っていると、見慣れた黒いコートを着た男が歩いてくるのが見えた。
紅翔太だ。
相変わらず無駄のない足取りで近づいてくるが、その表情はどこか険しい。
「おはようございます、紅さん」
「ええ、おはようございます、森山さん」
軽く会釈を交わしたあと紅翔太はマンションの外観をじっと見上げた。何かを探るように目を細め、しばらくそのまま動かない。
「何か気になりますか?」
「……いえ、まだ何とも。ただ――」
彼は私の顔をまっすぐ見つめると、静かな声で言った。
「また、厄介なことに巻き込まれていますね」
「やはり、何か憑いていますか?」
「ええ。後で『浄化の炎』で浄化しましょう」
彼は再びマンションを見上げ、首をかしげながらエントランスへと足を進めた。
花蓮もその後に続く。
休日ということもありマンション内は人気がなかった。
エレベーターの前まで来ると翔太は立ち止まり、閉じられた扉を見つめながら口を開いた。
「このマンションのことを調べてみたんですよ」
「何かわかりましたか?」
「オカルトライターの柿谷にも聞いたんですが、このマンションでは特に心霊現象などは目撃されていないそうです。少なくとも、ネット上にも地元の噂話にも上がってこない」
「そうなんですか……」
「ただ、あなたの体から漂う負の気配を見る限り、何かしらの心霊現象がこのマンションで起きている可能性は高い」
翔太の言葉に花蓮は昨夜の出来事を思い出した。
あの赤いワンピースの女性。
階段に落ちていた『4』の数字が写った写真。
彼女はありのままを翔太に伝えた。
「電話を切ったあと、エレベーターの前で赤いワンピースの女性を見たんです。それで、階段の前で数字の『4』が写った写真を見つけて……」




