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神様の日記 ―睡蓮様は今日も眠たい―  作者: くじら


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第四話:希望という名の猛毒

お手に取っていただきありがとうございます!楽しんでいただけたら嬉しいです!





◯月◯日 天候:神気が微量に漏れて、神殿の裏山が一つ消し飛んだ(キミマロには秘密だ)





「さて、キミマロ。料理と同じでな、何事も下ごしらえが肝心だ」


睡蓮は神殿の床に広がる雲を指先で払い、下界の孤児院を映し出す。



そこには、相変わらず泥にまみれて働き、強欲な院長に罵倒されている少女の姿があった。


今日の花売りの売上がいまいちで、頬を叩かれ晩飯は抜きらしい。



晩飯は、具材が入っているかいないか分からないほどの水スープとカビたパンの事だろうか?


「うむ、どうしたら面白いか……」


顎に手を当て思案顔の睡蓮



「睡蓮様……まさか、また大陸を沈めるような物騒なことはなさいませんよね?少しも面白くはないですからね?未知のウイルスを撒き散らすのも無しですよ!」



キミマロが震える声で尋ねる。胃のあたりを押さえているのは、神としての本能的な危機察知だろう。


キミマロは俺を一体なんだと思ってるのか。



「安心しろ。そんな事はせぬ。今回は『加点方式』だ。良い行いをする度に奇跡を与えると言うのはどうだ?神様らしいだろ?






あの娘に、ほんの少しの幸運エサを与えてやる」



まだ疑ってるのかジト目を向けて来るキミマロを無視して下界の娘をチラリ見つめる。



そして、爪の先ほどにも満たない神気を指先に集めた。


神にとっての「微量」は、人間界にとっては天変地異に等しい。


「あ、ちと……濃くし過ぎたかの?」


睡蓮はそれを丁寧に、丁寧に、練り上げて行く。


顔を青くするのはキミマロだった。


「す、すす睡蓮様っ!まさか、その凝縮された神気を……」


言い終わる前に睡蓮はポツリ呟く


「ま、良いか……」


そして言い終わる前にその指先を下界の少女に向け振り下ろした。



それに絶叫するキミマロ



神界全域に広がる程の絶叫だったとか。


「ひぃぃぃぎゃぁぁぁ!」



「……キミマロちと黙らんか、うるそうして敵わんわ。」



耳を押さえながら眉を寄せる睡蓮は、放心状態のキミマロを無視して下界を覗き込む。



「よし、どうなったか?どんな奇跡を見せてくれる?名も知らぬ少女よ」





下界。



少女は、その日も街角で花を売っていた。


だけどあまり売れなかったのか大量に残った花を前に少女はそれでも声を張り上げ道行く大人に声を掛ける。



「花は、綺麗な花はいかがですか?摘み立て新鮮なお花です!」



だけどその籠に入ってる大量の花は少女一人が売る量では無かった。



少女の傍らには空の花籠



そう、彼女が手に持ち売り歩いてる花は仲間の花籠


具合が悪くなった仲間に代わり花を売る少女



だけど一向に花は売れなかった。



夕方過ぎ、家路を急ぐ人々は少女など気にも止めず、むしろ邪魔だと手で追い払う。


それでもめげずに少女は売り続ける。



黄金色の光の筋は、花籠を抱えていた少女の頭上へと吸い込まれるように落ちていった。



少女は一瞬、背筋に温かいものが走った気がしたが、気のせいだと思い直し、再び声を張り上げる。



その直後、彼女が手渡した「ただの花」に、彼女の指先から神気が伝わり、暖かな空気を纏う。


睡蓮はそれを見て、口角を吊り上げる。



「くくく……。花なら燃やせば終わるが、人間ならそうはいかぬ。


あの娘自身が『奇跡の源』と知れた時、人間どもがどんな顔をして群がるか……見ものだな、キミマロ?」


キミマロは睡蓮の呟きを聞きながら頬を引き攣らせ、下界の少女を見つめる。



そこへ、少女の目の前を急いで通り過ぎて行くのは身なりの良い紳士服を身に纏った男性だった。


慌てて目の前を通り過ぎる男性は一回チラリと少女を見つめた後、顔に大量の汗をかいたまま顔を振り通り過ぎていく。



だけど、通り過ぎた筈の男性が何を思ったのか戻って来る。



少女はすかさず声かける


「花はいかがですか?お家で待つ大事なご家族にお土産は如何ですか?」



その言葉に男性は立ち止まる。



そして、徐に少女の籠の中を見つめる。


「真っ赤な……真っ赤な花はあるか?」



その言葉に少女はハッと目を見開き急いで言葉を放つ。



「はい!ございます!真っ赤な花ですね!」



少女は何となく聞く。


「ご家族にお土産ですか?」



少し羨ましいなと思う少女



自分には居ない家族は憧れだった。



男性は少し考え、まっすぐ少女を見つめる。



「あぁ、妻に……今日は結婚記念日なんだ……」



「……そうなんですね!つかぬ事をお聞きしますが、奥様は可愛いお花と豪華なお花のどちらが好みですか?」



「あ……あぁ、妻は……」



男性は結婚記念日だと言うのに浮かない顔だった。



「妻は……小さな花が、そう、赤くて可愛らしい花が好みなんだ」



そう呟いた男性は何かを思い出したように微笑む。



少女はその言葉に一つの花を差し出す。



「だったらこれなんてどうでしょう?赤い蕾も沢山ついてて小さくて可愛い花なんです」


少女が差し出したのは先程、暖かな空気を纏った花だった。


「赤が映えるようにオマケを入れて、リボンも巻いてます!奥様も喜んでくれると思います!」


そう言った少女の瞳はとてもキラキラと輝いており、男性も目を見開き、フッと笑う。



「そうだな……妻も、きっと喜ぶ」



花を受け取った男性は少女の掌に花代を置く。



少女の掌ごと包み込んで微笑む姿に少女はこんな人が父親だったら素敵だろうなと夢を見る。



だけど、自身の手の中にある金貨に気付き慌てて声を張り上げる。



「お客様!」



男性は一度振り返りシルクハットを手にお辞儀すると颯爽とその場を後にする。



「こんなに沢山……」



急いで追い掛けようとするも、何の悪戯か男性は人混みに紛れ見えなくなる。


その金貨は少女の数ヶ月分の売り上げに匹敵する。



少女はその金貨を暫く見つめる。



その様子を睡蓮とキミマロは遥か上空、神界の雲の上から見つめる。



「キミマロ、ここからが面白いから見てみろ」


「はい、しっかり三つの瞳で見ております!して、睡蓮様!あの花に何を?奇跡とは?」



「キミマロよ、それを言ったら面白くないではないか?ネタバレと言うらしいぞ?ネタバレした者は口にガムテープなるものを貼られ蹴られても文句は言えぬらしいぞ?」



「睡蓮様、ガムテープとは……」


「シッ!見てみろ!あの娘!やりおったぞ!」



キミマロに手を振りながら興奮気味に下界を見下ろす睡蓮




その少女は金貨を小分けにしていた。



そして、その日の花代を院長へと手渡すと残りを秘密の箱へと仕舞う。



その様子に睡蓮ははぁ〜と溜め息を吐き出す。



そして「つまらぬ」と言い放つ。



「やはりどの人間も一緒だという事かの?純粋だと思ってたらこのざま……キミマロよ、俺はがっがりぞ」



ゴロンと横になり後ろを向くとブツブツと文句を垂れ流し始める睡蓮



「少し金貨が手に入ったらすぐこれか……もうちと、踏ん張るべきではないか?俺の貴重な睡眠時間を削ってやったと言うに……」


「睡蓮様、睡蓮様の睡眠は削られておりませんよね?むしろ何時もより眠ってましたよね?それにガッカリするのは少し早いと思いますぅ!」



「ふん……俺はもう寝ようかの?」


キミマロは不貞寝する睡蓮を横目に下界の少女を見つめる。




「睡蓮様っ!見てください!かの少女を!やっぱり僕の目は正しかった!」



睡蓮の肩を揺らし指差すキミマロ



キミマロは、自身が見つけた少女のことを、睡蓮と同じくらい気にしていた。



元々、始めたのは睡蓮だった。だけど、件の少女を見つけたのは自分だった。


だからと言う訳ではないが、キミマロは少しだけ少女を気にしていた。



睡蓮は眠そうな目をしながらチラリと雲の隙間を見つめる。



「お?……おぉ〜!」



先程まで寝転び不貞寝してた睡蓮だが、パッと起き上がり膝を付き再び下界を見つめ始める。



そこにはくすねた筈の金を使い、孤児院の子供達に暖かな服と靴を渡す少女の姿。



そう、もう時季、極寒の冬が到来する。



少女の住む王国の冬は厳しい寒さだった。毎年孤児の数人が亡くなることが当たり前の季節。



少女は勿論、仲間の孤児達もみんながぼろ布に穴の空いた靴


「神様……ありがとうございます……!今年は誰も凍えることなく、この冬を越えられます」



少女は膝をつき、涙を流して祈りを捧げた。



その隣で、王族の血筋を隠した少年が、目を見開いて立ち尽くしている。


「リリナ!君の分の外套は?」



「……私の分はまだ大丈夫!穴も空いてないし、丈夫で暖かいわ!」



そう言った少女だが、少年は分かっていた、自分の分を切り詰めてまで、この少女はみんなの為に我慢したことを。



その後の少女の行動に睡蓮は意気揚々と笑う。



「キミマロ!見てみろ!?あの娘、残りの金貨を少しずつ崩し皆の飯に当てよった!流石俺が見込んだ娘ぞ」



「睡蓮様、睡蓮様!娘を見つけたのはキミマロです!キミマロをもっと褒めてくださいませ!」



「ははは!愛いやつよ!良くやったキミマロよ!だがキミマロよ、あの娘、己のためには一向に使わぬか」



「して、睡蓮様!そろそろあの紳士が買った花!花にどんな細工をしたのですか?」



「まぁまぁ、待てキミマロ!それはもう少ししたら分かろうぞ」



その数週間後の寒い季節が到来した昼前のこと



「キミっ!」



何時も少女が居る街角、その日も少女は花を売ってた。



貰った金貨は残り僅か、無駄になんてできない。毎日しっかり働いて、少しの駄賃を貰い皆のためにと笑う少女。


その少女に話し掛ける一人の紳士



そう、この前の花を買って行った男性だった。



「良かった、今日は居た」



どうやら少女を探してたようでホッと胸を撫で下ろした男性は少女を見つめる


そして徐に聞いてくる。


「この花は、何か特別な栽培をしてるのかな?」



「え?このお花ですか?いえ、特に……」



孤児院裏の花畑から摘んで来た普通の花



だけど男性はマジマジと少女と花籠を見つめる。



「そうか……じゃ、今日も花を貰おうかな」



その言葉に少女は喜び顔を綻ばせる。


「はい!今日は何色にします?奥様の好きな赤にします?」



「そうだな……赤にしようかな」



そう言った男性はその日も花を買って行く。



それはその日だけでなく、毎日、毎日、続いた。




男性はその内、少女の顔馴染みになっていた。



男性が買う花は何時も小さな赤い花




一つ変わったことと言えば男性が決まってリリナに質問して来ることだった。



人を疑うことを知らないリリナは聞かれるままに答えて行く。



「睡蓮様……睡蓮様っ!」



「ちと待て!今良いところぞ!」



「睡蓮様、悪い顔をしてます!キミマロは睡蓮様を信じておりますが、少女にとって良きことでございますよね?」


「あぁ、良きこと良きこと!」



キミマロの言葉を一ミリも聞いては居らず、睡蓮は下界を見つめる。



場所は変わって白い清潔な室内。



睡蓮は少女から男性に視点を切り替え、ニヤニヤと見つめる。



真っ白なシーツに白い壁。


四方を囲う小さくて赤い花。


消毒薬の匂いの室内に男性と部屋と同じ位、真っ白な肌の細い女性が居た。



女性は白い顔で唇の色も白く、今にも倒れ儚くなりそうな雰囲気だった。



枝のような細い腕には点滴の痕。



そう、余命幾らもない女性だった。


だけどあの日、奇跡は起こった。



男性がリリナから買った一束の小さな赤い花。



「アナタ、今日もお花を買ってきたの?ふふ……嬉しいわ。けど、もう飾る場所が無いわ」



「あぁ、この花を贈ってからマリア、君の容態が向上してる。私は毎日でも……そう毎日でもこの花を君に……」



「まぁ、相変わらずの泣き虫さん、普段はあんなにかっこいいのに泣いてるアナタは凄く可愛いわ」



「私が泣くのはマリア、君の前だけだ……」


「そうね、アナタは昔から泣き虫で甘ったれだったわ」



二人は昔からの付き合いで、そのまま大恋愛の末、結婚した。



だが、運命は何の悪戯か、女性の身体は弱く、子供は持てなかった。



二人はそれで良かった。



お互いが居たらそれで良い。



だけど病魔は確実に忍び寄って居た。



結婚記念日のその日、本当は尽きるはずの命だった。



だけど奇跡は起こった。



女性はこの後、見る見る間に回復して行き、病を克服する。



それはこの世界では有り得ない奇跡。



男性は涙を流して喜ぶ。



二人が手を取り合って喜ぶ姿を、睡蓮は雲の上から頬杖をついて眺める。



「ふはは! 見ろキミマロ、あの男と女の顔を。自分たちが救われたと本気で信じているぞ」



「……睡蓮様。あの花、ただの美しい花ではありませんね?」


キミマロが心眼を細めて問い詰める。


睡蓮はニヤリと、それこそ悪魔のような笑みを深めた。



「察しがいいな。あれは『万病を治す』魔性の花だ。アレはあの者達からしたら奇跡の花だな。


さて、あの娘が売るそんな奇跡の花が現れたらどうなると思う?」


「……あ」


キミマロが絶句する。



少女が起こした奇跡、それは二人にとったら「救い」だっただろう。だが、少女にとって、それは本当に奇跡となるのか?



世界中の強欲な人間たちを呼び寄せる、あまりにも甘い「撒き餌」(奇跡)だ。


「これからが本番だ。あの清らかな少女が、欲にまみれた大人たちに奪い合われ、絶望の淵に立たされた時……果たして隣の『騎士様』は、どうすると思う?あぁ〜面白い!面白いぞキミマロ!」



睡蓮は楽しそうに指先を躍らせる。



その瞳は、獲物を待つ捕食者のように虹色に爛々と輝いていた。



「キミマロ、昼飯は何だ? 最高の余興が始まるんだ、少し豪華なものが良いな」



主のあまりの性格の悪さに、キミマロはついに言葉を失い、そのまま静かに後ろへ倒れ込んだ。



そして睡蓮の言う通り、話はそれだけでは終わらない。



女性が外に出られるまで回復した頃、



その話は、瞬く間に広がって行く。




「奇跡の花に話を聞きまして?」





【観測対象:リリナ(自覚なき万能薬)と、欲にまみれた有象無象】


【 神気残量: 99.8% 】(裏山が消えたのは誤差だ。キミマロには、寝ぼけてクシャミをしたとでも言っておこう)



【キミマロのストレス値: 測定不能】(「あまりに慈悲がない」と泣きながら床を叩いている)



【今日の一言: 希望とは、絶望を美味しく煮込むためのスパイスに過ぎん。】


……ところでキミマロ、例の『アナル』の作法、あれを極めれば神気を使わずとも人間を昇天させられるのではないか?


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