第5話:ガラクタに真実の衣を
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◯月◯日 天候:神殿の裏庭に、下界の桃に似た果物があるが、その「万病を治す果実」をうっかり一粒落としたら、翌朝、神界の鳥たちが不老不死になって騒ぎ出した(うるさいのでキミマロに内緒で焼き鳥にした)
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「さて、キミマロ。人間は面白いぞ。本物の輝きを目の当たりにしながら、己の欲に目が眩んで、平気でガラクタを『真実』だと偽ろうとする。その滑稽な芝居、幕を下ろすにはまだ早かろう?」
睡蓮は、脂の乗った肉を口に運びながら、フォークで楽しそうに下界を指差した。
下界――孤児院の一室、その一室は孤児達が暮らす場所とは打って代わり、煌びやかで豪華な造りだった。
その豪華な一室の中央の机にでっぷりと肥えた中年の男がにこやかに微笑んでいた。
頭皮の薄い髪の毛を撫でながら目の前の紳士と淑女へ視線を向ける。
見るからに金を持ってる出で立ちに、院長はどの位の寄付をしてくれるのかと、手を擦り合わせる。
しかし、紳士から放たれた言葉は思ってたモノとは違った。
「私はウイリアム家当主、こちらの孤児を一人貰い受けたい」
思ってた言葉と違い内心舌打ちしながらも、表面では取り繕う。
「これはこれは、ウイリアム伯爵閣下! 孤児をご所望だと? 左様でございますか。
下働きをお探しで? それなら良く働く、使い勝手の良い子がおります! 素直で何でも言う事を聞きますよ!」
(まあ、そのように私が躾けているだけだがな)
揉み手で提案する院長に、紳士は静かに首を振った。
「いや。下働きではない。私達は、私達の子供として育てたいのだ」
「アナタ、早くあの子に会いたいわ」
淑女が頬を緩め、隣の夫を見つめる。そんな妻を愛おしそうに見つめ返す紳士。
(チッ、貴族の慈善事業か……)
院長はにこやかな笑顔を貼り付けながら、内心で冷笑を浮かべる。
(清廉潔白と名高い伯爵だが、中身はそこら辺の貴族と変わらん。
哀れで可哀想な孤児を引き取って育てた『人格者』という世間体、体裁が欲しいんだろう。綺麗な言葉を並べたところで、どうせ裏では良いように使い潰し、最後は処分する。
そしてまた次の『玩具』を求めてここへ来る……。
隠された言葉の裏も知らず、馬鹿な孤児どもは喜んでついて行くがな)
本当に養子として迎えるならば家系図に名を刻むはず。
それを口にしない時点で、所詮はその程度の扱いなのだと院長は確信していた。
(だが、これはチャンスだ。上手く潜り込ませれば、清廉潔白な伯爵家の弱みが掴めるかもしれん。……ここは慎重に子供を決めた方がいいな)
「そうですか、子供として……それは素晴らしい! 慈悲深い閣下に引き取られる子は幸せ者だ。……して、ご希望の条件などはございますか? ちょうど見栄えのいい子が――」
「欲しい子は決まっている」
紳士、ウイリアム・セシルの落ち着いた声が、院長の算段を遮った。
「聞けば、ここにリリナという娘がいるな?」
「え、えぇ……確かに、リリナは私の孤児院の孤児ですが……」
(どういう事だ? なぜリリナを?)
院長は一瞬の動揺を隠し、瞬時に思考を巡らせる。
「残念なことにリリナは今、隣町の教会へとお遣いを頼んでて留守なのです。
リリナも良い子なのですが、リリナ以上に他の子供達もご覧になられませんか?」
「いや、結構。私達はリリナに会いに来た。本人が居ないのなら仕方ない。
3日後に改めて来るとしよう。リリナを含め、話をしたい」
そう言って立ち上がる紳士。
残念そうに見つめ返す淑女を伴い歩いて行く後ろ姿を、院長は苦々しく見つめた。
二人が居なくなると、扉を壊す勢いで開け放ち、大声でリリナを呼び付ける。
「リリナっ!リリナ!今すぐ院長室へ来いっ!」
リリナは青い顔のままやって来た。
「お、お呼びでしょうか院長先生……」
その後院長はリリナへ厳しく追求し、最近のあらましを聞く。
「で、おそらくその顔馴染みがウイリアム伯爵閣下だと?」
「ウイリアム伯爵様がどの方か分かりませんが、いつもお花を買ってくださる紳士の方は金色の髪にシルクハットをいつも被り、青い目の優しげな風貌の方で、私、貴族ってもっと怖い方達だと思っていましたが、いつも優しくて……」
院長はリリナが言い終わる前に声を張り上げる。
「優しい!?ウイリアム伯爵が!?ウイリアム伯爵は元王室騎士団で……あぁ、卑しいお前に言っても分からんか!とにかく、あのウイリアム伯爵ならリリナお前!良くやった!」
ご所望の孤児はリリナだが、まぁ、どうとでもなる
そう思いながらリリナをジロジロと見つめる院長
「リリナよ、ウイリアム伯爵が訪れたら、アンナを養子に勧めるのだ!それとなくアンナの良い所を伝えて紹介するんだ!良いな?」
アンナとは孤児仲間の一人で、リリナと同じ歳の赤毛の綺麗な女の子だった。
ウイリアム伯爵と出会ったきっかけの花は、元々アンナが売るはずだった。
具合が悪くなったアンナの代わりにリリナが売ったことが始まりだったのだ。
「リリナ、いいな!?」
再度念を押され、リリナは青い顔をしたままコクコクと頷く。
今日は朝から気分が悪く、部屋で休んでいたところだった。
そんなリリナの様子にも気付かず院長は声を張り上げる。
「戻ってアンナを呼んでくるんだ!
あぁ、そうだ!リリナ、お前、今日のアンナの洗濯代われ……いや、これからはアンナの仕事はリリナお前がやるんだ!」
そう言われたリリナは逆らえるはずも無く。
「……承知しました」
こう言うしか無かった。
リリナはフラフラする身体のまま院長室を後にし、アンナが居る場所までやって来る。
今日は洗濯当番はアンナとダイアナ。
その筈だったが、井戸の前にはアンナの姿は見えず、洗濯物だけが置かれていた。
リリナは仕方なく、辺りを見渡す。
すると大きな洗濯カゴを持ったもう一人の洗濯当番のダイアナがやって来た。
ダイアナはリリナよりもだいぶん幼く、言葉も上手く話せない孤児だった。
「リリー!」
リリナの姿を発見し、洗濯カゴを置いて駆け出して来る。
「まぁ、ダイアナ走っては危ないわ?」
リリナは赤い顔のままダイアナを抱き締める。
熱が出て来たのか高いリリナの体温にダイアナが「あったかぁい〜」と声を漏らす。
だが、ハッとし、リリナの胸から顔を上げ眉を釣り上げる。
「リリー!アンナがね!酷いんだ!僕だけに当番を押し付けてった!」
ダイアナは女の子の名前をした男の子だ。
ダイアナの母親は女の子が欲しかったらしく、男の子のダイアナに女の子の名前を付け、格好も女の子の服を着せ、言葉使いも厳しく躾をして育てていた。
だけど、ダイアナの両親に女の子が生まれ、ダイアナは簡単に捨てられた。
厳しい躾のせいか、ダイアナは来た当初、言葉を発しなかった。
リリナはダイアナの真っ赤で冷たくなった指先をキュッと掴み持ち手で温める。
外は寒く、水は冷たい。
洗濯カゴには大量の洗濯物。
「ねぇダイアナ、アンナはどこ行ったの?」
その言葉にダイアナは奥の作業場を指さす。
そこは教会の物置と化してる小屋。
だけど、そこには教会の人達が作業しやすい様にと暖房器具や椅子なんかも置いてある。
リリナはダイアナを抱き上げ、作業場ヘと向かう。
窓からそっと中を覗くと、そこには椅子に腰掛け暖房器具で温まるアンナの姿。
そんな事をしても許されるのは院長のお気に入りだから。
「ふぅ〜やってられないわ。なんで私が洗濯当番なのよ……指が荒れちゃうわ」
細くて綺麗な指先を伸ばし、指先を見つめながらウットリとした声が部屋から聞こえる。
「私はいずれ貴族の家に貰われて行くんだから水仕事なんて出来ないわ〜私の美貌なら、有り得るわよねぇ」
確かにアンナ程の美貌なら、有り得ない話ではないと思うリリナ。
しかもアンナは何処かの貴族の隠し子だと言う噂だ。
だけど、ダイアナは違うらしく、そこら辺の女の子よりも女の子らしい顔をおかしいと言わんばかりに歪ませ笑う。
「ぷぷ……美貌だって!アンナよりリリーの方が数億倍綺麗なのに……」
ボソッとダイアナが呟いた瞬間、アンナが二人に気付く。
「誰っ!」
リリナは苦笑いしながら作業場へと足を踏み入れる。
暖かな空気が冷えた身体を包み込む。
「アンナ、院長先生がお呼びよ」
その言葉にアンナは嫌そうな顔をする。
だけど次の言葉に顔を輝かせる。
「それと、今度から洗濯当番水仕事は私がするようになったわ」
「それは本当なの!?ようやく院長先生も私の価値に気付いたのね!こうしちゃ居られないわ!一体何の用かしら?」
急ぎ足で作業場から飛び出して行くアンナ。
そして、その日以降、奇妙なことに、花が飛ぶように売れる。
【観測対象: リリナ(摩耗する聖女)と、欲に目が眩んで頭皮が薄くなった院長】
【神気残量:99.7%】
(少女の熱が上がるほど、神気が漏れ出している。身体に馴染むまでの辛抱だと笑ったら、キミマロに凄い顔を向けられた。俺はお前の主ぞ)
【キミマロのストレス値:測定不能】
(ダイアナの過去を聞いて号泣。こやつは昔の自分を重ねているのかもしれぬ。現在、神殿の床を涙で水浸しにしている。掃除が面倒だ)
【今日の一言: やはり下界の桃は味が薄いな。ところで……キミマロに内緒で不老不死になったあの焼き鳥はどうなっただろうか?煮ても焼いても死なぬなら、永久に噛み続けられる『無限ガム』として活用できぬか?】




