第二話:神の眼、節穴につき
この作品は不定期更新です┏○ペコッ
◯月◯日 天候:雷を落としてやろうかと思ったが止めた。
あまりに暇なので、この世界の「主役」を一人決めて、その人生を観賞することにした。
俺は雲の端に腰掛け、下界を流れる有象無象の人間どもを眺める。
「おい、あの男はどうだ? 人間の中ではまぁまぁな造形をしていると思わんか? まぁ、俺たち神々には遠く及ばんがな」
俺が指差したのは、着飾った貴族風の男だ。
すると、隣で甲斐甲斐しく俺の枕を叩いていた傍仕えが、ひっくり返った声を上げた。
「睡蓮様! 神々と人間の造形を一緒にしてはなりません! 目が潰れるほどの美貌を持つ神々を前にして、失礼で済みませんよ、叱られる所の話じゃありません!」
こいつは、俺の神気から生み出した傍仕えだ。
俺の体の一部から出来ているというのに、口を開けばあーだこーだ。
少しも俺のゆったりした気質に似ていない。
まぁ、一つの個体として切り離した以上、別の人格が宿るのは仕方ないのだが……。
俺は「はぁー」と深くため息をついた。
「それに睡蓮様、あの人間はおすすめ出来ませぬ。外見だけは立派ですが、中身は欲望まみれのヘドロ同然! 『心眼』で見ずとも分かるほど、頭の中までドロドロのグチャグチャに腐りきっていますよ!もはや魂の形すら残っていないドロドロの塊です。見て損しました、最悪です!」
この傍仕え少し……いや、だいぶん潔癖なところがある。
だが、傍仕えにそう言われると、急にどうでも良くなってきた。
綺麗な顔の内側がヘドロ。
実に人間らしいが、今はそんな重たいものを見たくない。
「……今日は少し疲れた。もう寝る」
「えっ、もうですか!? 主人公探しはどうするんですか!」
うるさい声を無視して、俺は心地よい微睡の中に沈んでいった。
主人公探しは、まぁ、明日でいい。
(睡蓮が寝入った直後、神域の空気が一変し、真昼のような強烈な光が差し込む)
「……おや、また寝ているのか。この男は」
豪快な声と共に現れたのは、背中に太陽を背負っているかのような、輝かしい神気が溢れる男だった。**序列二位・太陽の神、天耀**である。
「天耀様! これは失礼いたしました。今すぐ睡蓮様を起こします!」
傍仕えが慌てて睡蓮の肩を揺らそうとするが、天耀はそれを手で制した。
「あぁ、よいよい。寝かせておけ。睡眠の神から眠りを奪うのは、あまりに無粋というものだ」
天耀は睡蓮の寝顔をじっと覗き込んだ。
長い睫毛、透き通るような肌。世俗の汚れを一切拒絶して眠り続けるその姿は、神々の間でも一目を置かれるほどに完成されている。
「……うむ。やはり起きぬな」
「……っひ、申し訳ございません。おそらく、こちらから強引に起こさない限りは……」
「そうか。……それにしても、寝ている姿まで美しいとは罪なものよ。これでは、他の神々が放っておかぬのも無理はない」
「睡蓮様は、その……」
「それ以上言わずともよい。わかっている」
天耀は満足げに頷くと、スッと立ち上がった。
その瞬間、彼の背後で再び光が爆発したかのように輝き、神域全体が黄金色に染まる。
「序列二位の俺が直々にやって来ても起きぬとは、相変わらずよ! はっはっは!」
口を開けて豪快に笑いながら、太陽の神は光の粒子となって消えていった。
後に残されたのは、主人の静かな寝息と、呆然と立ち尽くす傍仕えだけだった。
「……はぁ。自分勝手なのは、どこの神様も一緒ですね……」
傍仕えは深いため息をつき、睡蓮にそっと布団をかけ直した。
明日は一体、何時に起こせばいいものか。
主人の安らかな寝顔を見つめる傍仕えの顔は、神の奇跡でも癒せぬほどに、深く、深く疲れ切っていた。
【観測対象:保留(候補の貴族はヘドロにつき却下)】
【神気残量:98%】
【今日の一言】
「明日やる」は、神にとっても魔法の言葉だ。
それにしても、天耀の奴が来ていたような気がする。
あいつが来るといつも神域が眩しくてかなわん。
……ふあぁ、あとのことはキミマロに任せて、俺は本格的に寝ることにする。
おやすみ、世界。




