第29話 3日目と、ふわふわのともだちと街めぐり
連休3日目の朝、佐藤悠真は湖畔のテントの中でゆっくり目を覚ました。
柔らかい朝陽がタープの隙間から差し込み、湖の水面が静かに輝いている。
膝の上には、霧影兎がふわふわの体を丸めて眠っていた。
悠真が体を動かすと、兎は長い耳をぴくぴくさせながら、眠そうに心の声で挨拶してきた。
『おはよう……
きみ、まだここに……
ずっと、いっしょ……
うれしい……』
悠真は優しく兎の頭を撫で、微笑んだ。
「今日は街の方を少し見て回ってみようか。
お前も一緒に来る?」
霧影兎は耳を立て、嬉しそうに体をすり寄せてきた。
心の声が弾むように響く。
『いく……!
きみといっしょなら、どこでもいく……』
朝食はシンプルに。
残りの星白米を温め、銀葉草を散らした粥を作り、黄金花茶を淹れた。
霧影兎にも少し分けてあげると、満足げに食べながら心の声で喜びを伝えてくる。
食事を終えた後、悠真は軽い荷物だけを持って、霧影兎を肩に乗せた状態で街の方へ歩き始めた。
湖畔の露店街を抜け、街の中心部へ向かうと、木と石を組み合わせた素朴で温かみのある建物が並んでいた。
魔法灯の柔らかい光がまだ残る朝の街は、穏やかな活気に満ちていた。
最初に訪れたのは、小さな教会だった。
白い石造りの建物で、入り口に淡い青の花が飾られている。
中に入ると、柔らかい光が差し込み、静かな祈りの場が広がっていた。
霧影兎は悠真の肩から降り、好奇心旺盛に周囲をうろうろしながら心の声で伝えてくる。
『ここ、きれい……
あたたかい光……
こわくない……』
悠真は静かにベンチに座り、霧影兎を膝の上に乗せた。
教会の穏やかな空気に包まれながら、現代の忙しない日々を思い返した。
ここにいると、心が自然と整うような気がした。
しばらく祈るような気持ちで座っていると、霧影兎が心の声で優しく囁いた。
『きみ、ちょっとつかれた?
だいじょうぶ……
ぼく、いるよ……』
悠真は兎の頭を撫で、静かに微笑んだ。
次に訪れたのは、道具屋だった。
店先には木製のランタン、丈夫なロープ、革のバックパック、魔法灯のオイルなどが並んでいる。
店主のおじさんは悠真と霧影兎を見て、にこやかに声をかけてきた。
「珍しい組み合わせだな。
旅の人か? その兎は……森の友達かい?」
悠真は軽く会釈し、店内を眺めた。
霧影兎は興味津々で棚の間を動き回り、心の声で感想を伝えてくる。
『このロープ、丈夫そう……
このランタン、きれい……
きみ、ほしい?』
悠真は小さな木製のマグカップと、軽量のロープを1本購入した。
店主のおじさんは霧影兎を見て微笑みながら、特別に小さな干し果実を一つ分けてくれた。
「その子にどうぞ。
森の友達がいる旅人は、きっと良い旅ができるよ」
次に立ち寄ったのは、武器屋と防具屋が併設された店だった。
店内には剣や弓、革の胸当て、軽量のマントなどが並んでいる。
悠真は興味本位で見て回ったが、買うつもりはなかった。
霧影兎は少し怖がりながらも、悠真の肩から覗き込み、心の声で伝えてくる。
『これ、ちょっとこわい……
でも、きみ、守ってくれる?
ぼく、だいじょうぶ……』
悠真は優しく兎を抱きしめながら、店主に軽く挨拶して店を出た。
「今日は見るだけだよ。
俺は戦うより、焚き火を囲む方が好きなんだ」
昼過ぎには、露店街の食べ歩きを楽しんだ。
バルトおじさんのパン屋で温かい果実パンを一つ、リリアの店で新鮮なハーブティーをいただき、エマさんの森の甘味堂で星蜜果のジャムを塗ったクッキーを購入した。
霧影兎は悠真の肩や膝の上で、時々心の声で喜びを伝えてくる。
『あまい……
おいしい……
きみ、わけてくれて、ありがとう……』
午後遅く、キャンプサイトに戻った悠真は、霧影兎と一緒に焚き火を囲んだ。
今日は軽めのキャンプ飯にした。
星白米の残りで簡単な粥を作り、銀葉草を散らし、朝に買った果実パンを温めて食べる。
霧影兎は焚き火の側で丸くなり、満足そうに心の声で話しかけてくる。
『きょう、いっぱいみた……
きみといっしょ、たのしかった……
また、あしたも……』
夕陽が湖面を赤く染める中、悠真は霧影兎を抱きながら静かに呟いた。
「明日も、明後日も……まだ一緒にいられる。
ゆっくり過ごそう」
霧影兎の心の声が、優しく響いた。
『ずっと……
いっしょに……
だいすき……』
連休3日目の湖畔は、静かで温かかった。
新しい出会いと、ふわふわの友達との時間に、心が深く満たされていった。
(第29話 3日目 終わり)




