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「疲れたら異世界キャンプ ~秘密の焚き火で心をリセット~」  作者: 新米オッさん兵士


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第30話 連休最終日と、焚き火の森カフェ

連休4日目の朝、佐藤悠真は湖畔のテントの中で静かに目を覚ました。

 柔らかい朝陽がタープの隙間から差し込み、湖の水面が穏やかに輝いている。

 膝の上には、霧影兎きりかげうさぎがふわふわの体を丸めて眠っていた。

 4日間一緒に過ごした今、兎はすっかり悠真に懐き、夜は必ず膝の上や隣で寝るようになった。

 悠真が体を動かすと、霧影兎は長い耳をぴくぴくさせながら、眠そうに心の声で挨拶してきた。

 『おはよう……

 きみ、まだここに……

 4にちめ……

 うれしい……でも、ちょっとさびしい……』

 悠真は優しく兎の頭を撫で、声に出して答えた。

 「今日が最後だね……

 でも、またすぐに来るよ。

 約束する」

 朝食はこれまでの4日間で一番丁寧に作った。

 残りの星白米で粥を炊き、銀葉草と森の青菜をたっぷり入れ、森晶塩で味を調えた。

 黄金花茶を淹れ、星蜜果のジャムを塗った果実パンも温めて添える。

 霧影兎にも自分の分を少しずつ分け与えながら、焚き火を囲んで静かに食べた。

 心の声が、優しく響いてくる。

 『あまい……

 やさしい……

 きみといっしょに、ごはん……

 だいすき……』

 朝食を終えた後、悠真は少し考え込んだ。

 今日は連休最終日。

 明日には現代に戻らなければならない。

 最後の日に、何か特別なことをしたいと思った。

 ふと、頭に浮かんだアイデアがあった。

 「そうだ……今日は、ちょっとした『焚き火の森カフェ』を開いてみようか」

 悠真は簡易テーブルと椅子を焚き火の近くに並べ、小さな看板代わりに「今日は特別にコーヒーを淹れます」と書いた木の板を立てた。

 現代の深煎りコーヒー豆と、黄金花・月影薄荷をブレンドした特別な森のコーヒーを準備した。

 霧影兎は興味津々でテーブルの横をうろうろしながら、心の声で応援してくれる。

 『きみ、なにするの?

 いいにおい……

 みんな、よろこぶよ……』

 午前中、湖畔を散策している人々が徐々に近づいてきた。

 最初に声をかけてきたのは、リリアだった。

 「珍しい看板ね……

 コーヒー? それ、前に交換してもらった豆かしら?」

 悠真は微笑みながら、丁寧に淹れた森のブレンドコーヒーをカップに注いだ。

 黄金花の優しい甘さと月影薄荷の爽やかさが、深煎りコーヒーの香りと完璧に調和している。

 リリアは一口飲んで目を丸くした。

 「なんて豊かな香り……!

 森の花とハーブが溶け合ってるみたい。

 これ、売ってくれるの?」

 悠真は照れくさそうに答えた。

 「今日は特別に、1杯100コインで……

 気に入ってもらえたら嬉しいです」

 リリアはすぐに100コインを払い、笑顔でコーヒーを味わった。

 次にバルトおじさんも通りかかり、コーヒーの香りに誘われて立ち寄った。

 「おお、これは……!

 朝からこんな良い香り、久しぶりだ」

 子供たちも数人集まってきて、悠真は子供用に少し甘めの星蜜果を入れたバージョンも淹れた。

 子供たちはカップを両手で包みながら、目を輝かせて飲んでいる。

 『おいしい……

 あまい……

 おじさん、ありがとう……』

 霧影兎はテーブルの下や悠真の膝の上で、時々心の声で感想を伝えてくる。

 『みんな、よろこんでる……

 きみ、すごい……

 ぼくも、ちょっとだけ……?』

 悠真は笑いながら、兎用の小さな葉っぱの上に薄めたコーヒーを少し置いてあげた。

 霧影兎は嬉しそうに飲んで、満足げに耳を倒した。

 その日、悠真は合計12杯ほどのコーヒーを淹れた。

 得たお金は決して多くなかったが、露店の人々との会話が何よりの収穫だった。

 リリアは「またブレンドを教えてね」と言い、バルトおじさんは「次は俺のパンと一緒にどうだ?」と誘ってくれた。

 子供たちは「また来てね、おじさん!」と手を振って去っていった。

 午後遅く、悠真は焚き火を囲んで最後のキャンプ飯を作った。

 残りの食材で炎鱒と森守鶏の串焼き、星白米の炊き込み飯、黄金花茶。

 霧影兎は膝の上に乗ったまま、時々心の声で話しかけてくる。

 『きょう、たのしかった……

 コーヒー、みんなよろこんでた……

 きみ、やさしい……』

 夕陽が湖面を赤く染める中、悠真は霧影兎を抱きながら静かに呟いた。

 「明日、現代に戻るよ。

 でも、絶対にまた来る。

 待っててくれるかな?」

 霧影兎の心の声が、優しく響いた。

 『まってる……

 ずっと、まってる……

 だいすき……

 またあう……』

 連休最終日の夜は、静かで温かかった。

 4日間の思い出と、ふわふわの友達の温もりが、悠真の胸をいっぱいに満たしていた。

 翌朝、悠真は名残惜しそうに荷物をまとめ、焚き火の灰を冷ました。

 霧影兎は焚き火の側でじっと見送り、心の声で最後の言葉を伝えてきた。

 『いってらっしゃい……

 またくるの、まってる……』

 午前十時半、門がゆっくり薄れ始めた。

 悠真は湖と森と、霧影兎を振り返りながら、光の門をくぐった。

 現代のキャンプサイトに戻り、撤収作業をしながら悠真は胸に手を当てた。

 4日間の温かさと、霧影兎の心の声が、まだ体の中に残っている。

 アパートに帰ったら、ベランダで焚き火を起こし、この連休のすべてをゆっくり振り返ろうと思った。

 秘密の焚き火は、今日も俺の心を深く、優しく照らしてくれている。

 そして、森の小さな友達が、俺を待っていてくれる。

(第30話 4日目・最終日 終わり)

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