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次の日、リディは平常心で学園に通学した。案の定、噂を聞いた人も多いのか、リディを見ている人が多い。自分の教室に入ると、みんな遠慮がちにだが、やはり好奇心に負けてかリディに直接聞く人もいた。
「リディ様? あの、光の魔法一族の血を引いているという噂は本当ですか?」
「そんな、まさか! 私もその噂聞いて、驚いたくらいで。怪我人を救護班に連れて行っただけなのよ」
「その連れて行ってもらったの、俺の弟なんだ。リディ、あの時はありがとうな」
「いいの。アルフォンス君が元気になってよかった」
「たぶん、変な噂になってるのは弟のせいかも。弟に頭突きした猪が、リディを見て逃げ出したらしくて。弟が天使が助けてくれたって騒いでたから。思ってもみない方向に噂が変化したみたいだな」
「なぁんだ、そんなオチ?」
フェルナンが会話に入ってくれたお陰で、どうやら噂は間違いだとみんなに印象付いたようだった。内心ほっと息をつき、フェルナンを見ると、フェルナンがニカッと笑った。
やはりフェルナンは何かしら気づいているかもしれない。それでも、リディを助けてくれたのだ。ありがたい。
同じ日、廊下で会ったリュカに、声を掛けられた。リュカは最近忙しいようで、学園で見ることはあっても、話しかけられずにいたのだ。この日も生徒会の仕事で忙しいのか、少しだけ話そうと言われ、廊下の端で立ち話をした。
「リディ、ここ数日のリディの噂って……」
「ああ、あれ? 間違った噂が広がっちゃって。私も驚いたー! でも、違うんだよ~そんなわけないんだもん」
「……そうだよね。俺もそんなわけないとは思ってた」
「そうだよ。まあ、光の魔法が使えたらいいなって思ったことはあるけどね! そしたら、私って最強じゃない?」
「ははっ、そうかも」
そんな話をしながらも、実はリュカを待っている生徒会のメンバーの子がチラチラとこちらを見ていた。
「リュカは忙しいんだね」
「今日は特にね。これから生徒会の会議と先生方との会議が、一日に二つも入ってる……」
「それは、忙しいね……」
「うん。……あ、そうだ、リディ。今度どこかで話したいことがあるんだ。お茶をしながら話そう」
「うん、分かった」
そのようにして、リュカとは別れた。やはり、リュカも気になったよね。リディがまさか光の魔法一族、つまりベルリエ公爵家の血筋なのかと。嘘をついてごめんね、リュカ。本当のことは言えないんだ。
それから、クラスの子が噂は間違いだと、他のクラスの子に話題にしてくれたようで、一週間もすれば、リディの噂をする人はいなくなった。
そして、狩りから十五日ほど過ぎた日、この日はレオと一緒に帰る約束をしていた。レオがリディの馬車に乗り、レオの馬車はリディの馬車の後ろから付いてきていた。
一緒に帰るのは、短い時間ではあるが一応デートのつもりだ。レオがリディを片手で抱き寄せ、馬車が出発したと同時に、リディの頬にキスしてきた。
「レ、レオ、何か、今日は早くないかなっ!?」
「どれだけ二人で会えなかったと思ってるの? これでも、学園でリディを見るたび、抱きしめたいのを我慢してたんだよ」
確かに狩り以降、ずっとレオは忙しくて、一緒に帰る時間もなかったのだ。
「リディも、俺にキスして?」
「……っ」
なんだか、レオの視線が艶めいていて、ドキドキする。
リディはそっとレオに顔を近づけ、頬にキスをした。すると、近距離でレオと視線が交わう。熱を含んだレオの視線に顔が熱くなるが、リディはこれ以上は今は無理とレオの首に手を回して、レオに抱きついた。
「……唇にはしてくれないんだ?」
「い、今までしたことないのに、無理! 恥ずかしいもん! また今度!」
「ははっ。今度はしてくれるんだね。楽しみにしておく」
からかうように笑うレオに、リディはあれ? っと思うのだった。なぜか、リディ自ら今度は唇にキスすることを約束してしまった気がする。
「リディは可愛いね。話す言葉も仕草も恥ずかしがるのも、全部可愛い」
「……」
レオは抱き付いているリディの耳元でそう呟いた。なんだか、ドキドキしっぱなしだ。元々レオは、褒めたりすることを躊躇しないタイプだ。小さいころから、リディは『優しいね』『可愛いよ』などと、誉め言葉を何度も言われたことがある。友達だった時に言われていた言葉とそう変わらないはずなのに、なぜこんなにもドキドキするのか。
「リディ、好きだよ」
レオはまたリディの耳元でそう言って、リディの耳にキスをした。リディはばっとレオから離れ、耳を手で押さえる。顔が熱い。
「ははは、リディが真っ赤で可愛い」
「な、な、なんか、レオが変! 前はレオも恥ずかしがってたのに!」
「ええ? リディを愛でてるだけなのに。これでも、リディに会えてドキドキしてるよ。会える日は少ない事に気づいたから、積極的に愛情表現しておきたいだけ。リディに会えなかった十五日分の愛を受け取ってほしいな」
「十五日分……」
会えなかったのがいけなかったのか! 毎度こんな風にされたら、リディの心臓がもたない気がする。次はできるだけ、早めに会う日を作ろう。
「ほら、リディ。離れていないでもう少しこっちに来て」
リディはまだ赤い顔のまま、そっとレオの横に戻った。するとレオがリディの腰に手を回す。そっと横のレオを見上げると、レオが愛しそうにリディを見た。
「わ、私もレオが好き」
さっきのレオの言葉のお返しだった。ふっとレオは笑い、リディの額にキスを落とす。
「ありがとう、リディ」
とりあえずは、リディをドキドキさせる、いつもとは違うレオは終わりを告げたらしい。少しほっとしたリディである。それからは、最近の出来事をレオと話した。リディが光の魔法の一族の血を引くことはレオは知っているので、あの噂が出た時は心配していたようだ。ただ、そのあたりは、当初レオと手紙でやり取りしていたため、今は落ち着いたことに安心していた。
しかし。
進む馬車、二人で会話をする中、なにやら外が騒がしい気がして互いに外を見た。「止めろ!」やら「離れろ!」など、悲鳴も聞こえる。
「何だろ?」
リディが左の窓、レオが右の窓から外を見る。リディの見た窓からは、何もないような気がした。すると、レオから険しい声が上がる。
「なっ……、暴走車!?」
「え」
リディもレオの方の窓を見ると、暴走した馬車がすでにリディたちの馬車に迫っていた。
ぶつかる――。




