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暴走車を見て、リディはとっさに影を出したが、暴走車を止めるには間に合わない。他にどのように対応すればいいか、すぐには浮かばない。そう思った時、レオがリディを抱き寄せた。
暴走車がリディの馬車に激しくぶつかった。馬車は横転し、繋がった馬を引きずりながら、さらに横滑りする。馬車は歪な形に潰れ、辺りは大騒ぎになった。
リディは痛みを覚悟して目を瞑ったが、何も衝撃がない。
「リディ!」
レオの声に、リディはそろっと目を開けた。
「レ、レオ」
「痛いところはない?」
リディは顔を振る。どこも痛くない。
リディは回りを見た。リディはレオに抱かれたまま、横転した馬車の左の扉の上に横になっていた。見た限り、レオも怪我をしている様子はない。
リディとレオの回りの状況は、頭上に反対側の扉があって、かなり潰れて扉がリディたちに迫ってはいるが、反対側のリディたちまでは潰れていない。そして、リディたちはというと、白くて半透明の円のような膜に覆われていた。
「……物理バリア?」
「うん。とっさにだけど、間に合ってよかった」
「……レオが助けてくれたの? ありがとう」
「……リディが無事で本当によかった」
ほっとした顔のレオが、リディの頬を撫でる。
まさか、物理バリアをレオができるとは知らなかった。リディも闇魔法を使ったバリアは作り出せるが、魔物には効くけれど物理には効かないのだ。
まだ物理バリアを出したままで、だからリディの下にある扉のガラスが割れていても、リディたちには影響はない。
「殿下! 殿下! ご無事ですか!」
リディたちの後ろから付いてきていたレオの馬車の御者なのか、緊迫した声が聞こえた。
「こちらは大丈夫だ! 誰か呼んできてくれないか」
「よ、よかった殿下! すぐに、すぐに呼んで参ります!」
リディはその声を聞きながら、じわじわと涙がでるのを感じていた。
「リディ!? やっぱり、どこか痛む?」
「……ううん。今頃怖かったって思って。……っ、レ、レオがいなかったら、私、潰れてたっ。とっさに影を出したけど、何をすればいいのかも分からず混乱していたし、私、強くなったと思ってたのに、何もできなくて」
「怖いのは当たり前だよ。俺だってかなり焦った。あんな短い間に、とっさに何かするほうが難しい。リディがそんなに落ち込まなくていい」
「……うん」
レオに縋るように顔を寄せた。とっさに対応できない自分が情けなくて、そして、やはり怖かったと震えてしまう。そんなリディを抱きしめてくれるレオに安心するのだった。
それから、皇宮から人がやってきて、助け出されたリディたちは、レオの馬車でラヴァルディ公爵家へ帰ってきた。リディが助け出される前に、先にラヴァルディ公爵家へ連絡が行っていたため、現在ラヴァルディ領にいるパパにも連絡済みだと執事が教えてくれた。パパはこちらに向かっているという。
レオがリディを心配し、パパが来るまで一緒にいてくれた。応接室でレオとお茶とお菓子で一息付いていると、パパが入ってきた。
「リディ」
「パパ!」
パパを見ると、一時の恐怖は落ち着いていたはずなのに、涙が溢れ、リディはパパに向かって走った。パパが抱きとめてくれる。
「怪我はないと聞いていたが、大丈夫なんだな?」
「うん。レオが助けてくれたの」
パパは力いっぱいリディを抱きしめ、そしてレオに口を開いた。
「レオポルド殿下、リディを助けていただき、ありがとうございます」
「当然のことをしただけですから」
二人の声に、リディはパパから体を離す。パパと隣同士でレオの前に座った。そして、事故の流れをパパに説明した。
その後、レオが口を開く。
「今回の事故については、調査をすでに依頼済みです。ただ、ぶつかって来た側の御者が事故で亡くなっており、調査結果は状況判断になると思われます。調査結果が分かり次第、公爵にお知らせします」
「ありがとうございます。……相手の馬車に乗っていた人は御者だけですか?」
「そのようです。辻馬車のようですが、客は乗っていませんでした」
「……」
「公爵? 何か今回の事故で気になることでも?」
「馬車を引いていた馬はどうなりました?」
「それが、引いていた二頭の内、一頭はすでに死んでいます。もう一頭も怪我がひどく、正直、死ぬ可能性が高いかと」
「では、その馬の状況も確認いただけますか。興奮剤の類を使用していなかったかどうかが知りたい」
「もちろん、そのつもりですが……まさか、今回のが事故ではないと?」
「本当に事故だったかどうかを確認しておきたいんです」
リディはパパを見た。
「……ただの事故じゃないの?」
「今は断言できないだろ」
「……」
リディは口を結んだ。パパが言いたいのは、偶然を装った聖女狩りの可能性を言っているのだ。噂は曖昧になり、ほとんど消えかけたと思っていたのに、リディを聖女、もしくは光の魔法の一族だと仮定して動いている人がいるかもしれないということだ。
リディとパパの会話に、レオが眉を寄せていた。
「……レオ、さっきの物理バリアって、練習したらできるようになる? 魔法属性次第で適性がないなら使えなかったりするかな?」
「……あれは、竜人族の末裔しか使えないんだ」
「そう……なの?」
そうか。そうだよね。もし物理バリアが誰でも使えるなら便利なので、身の安全のためにも学園の講義で習いそうなものだ。
「……事故ではない可能性の理由を教えていただいても?」
「申し訳ありません。今回助けていただいたことには感謝しますが、ラヴァルディの問題ですので、ご理解ください」
「……分かりました。ただ、リディの事で手伝えることがあれば、遠慮なく俺に言ってください。協力は惜しみませんから」
「……ありがとうございます」
レオはそこで帰っていった。
「リディ、レオポルド殿下と一緒に帰ったことがリディを助けたのだから、何も言うつもりはないが、いつも一緒に帰っているのか?」
「ううん。今日が初めてだよ。あ、前に狩りの時も一緒に帰ったけど」
「……へぇ」
え、何? パパがじっとリディを見ている。ずっと無言でリディを見るパパに、なぜかリディは落ち着かない気持ちになる。
「……まあいい。念のため、医師に体調を見てもらえ」
「え? 怪我していないよ?」
「それでも、見てもらえ」
「うん、分かった。……パパ、仕事中だったよね。来てくれてありがとう」
「知らせを聞いたときは、生きた心地がしなかった。本当に無事でよかった。レオポルド殿下には礼をしないといけないな」
「うん」
パパはリディを片手で抱き寄せ、こめかみにキスをくれる。
「もし、本当に聖女狩りだったのなら、同じことが起きた場合どうすればいいの?」
「リディ一人なら、地下世界に逃げろ」
「……あ、そうか。暴走車を止めるか、自分を守るんじゃなくて、地下世界に逃げればよかったんだ」
「レオポルド殿下がいるなら、リディを守ってくれるようだな。あと、今回の事故の調査次第だが、もし事故ではなさそうだという結果になるなら、リディの通学は毎日通る道を変更する」
「……どうして?」
「リディはほぼ帰りは寄り道をしないだろ。学園への行き来の道はほぼ固定だ。ということは、どこでリディを襲おうとするかなど、準備されやすい」
「あ、なるほど」
もし、事故ではなかったのなら、再び故意に事故をよそって襲われないよう、道を変えての通学をすることになった。
そして、二日後、事故の調査結果が届いた。
馬に興奮剤の使用痕跡あり。どうやらリディは、何者かに狙われている可能性が浮上した。




