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皇家主催の狩りに出た日、夜にはラヴァルディ領へ帰った。そして、その次の日。
パパとレストランへ昼食デートに行き、屋敷に帰って来ると、ブリスが慌てて近寄ってきた。
「兄上、少しいいですか。リディも一緒に」
パパの執務室に移動し、ソファーにパパと隣同士で座ると、さっそくブリスが口を開いた。
「昨日の皇家の狩りでのことについて、帝都でどうやら噂が出回っています。……リディが聖女ではないかと」
「え!?」
「……」
さっとリディは顔を青くした。パパは眉を寄せる。ブリスがまだ続けた。
「ただ、魔法の使えるリディが聖女というのはおかしいと、もしかしたら、光の一族の血も引いているのでは、という憶測も上がっているようです」
「ご、ごめんなさい……」
もしや、アルフォンスに癒しの力を使っているところと見られたのだろうか。
リディは、アルフォンスの怪我を治した話をした。それにしても、昨日の今日で、噂が流れるスピードが早い。
「なるほど……。狩の日の夜は、貴族の大人たちはパーティーをしますから、そこで噂が広がってしまったのでしょう」
「ごめんなさい……私が確実に確認しなかったから。周囲を見て誰も見ていないって思ったの」
でも、よく考えれば、リディだって鈍い音が聞こえてアルフォンスのところへ行ったわけで、あの音を聞いていた人が他にもいた可能性はある。それに、狩りなので、みんな音を立てないで移動していたのだろう。リディが気づかなかっただけなのだ。
自分の迂闊さに、泣けてくる。
「リディは怪我人を無視できなかっただけだ。泣く必要はない」
パパが指でリディの涙を拭う。
「ブリス、噂を流せ。闇の魔法一族の人間が光の魔法の一族の血を引いているわけない、と笑い飛ばす噂をな。あと、噂を流した奴を見つけ出せ」
「承知しました」
「ただ、噂を完全に消すことはできない。リディは何か聞かれるかもしれないが、否定して笑い飛ばせ」
「わ、分かった!」
リディがやらかした問題だ。力強く頷いたが、その次の日、さっそく慌てることになった。ラヴァルディ領からパパと帝都のラヴァルディの屋敷へ移動すると、屋敷にはマリオット侯爵とその息子二人、フェルナンとアルフォンスが訪ねてきていたのである。
応接室にて、マリオット侯爵は口を開いた。
「ラヴァルディ公爵閣下、この度は、アルフォンスの命を助けてもらい、公爵令嬢には感謝しております。傷を治していただいたとか」
ひぇ。噂が正確で怖い。本当にまるっと見られていたのだと感じる。服の中に冷や汗をかきながら、リディはパパの手を握った。
ちなみに、アルフォンスはあの後、聖女と医師に診てもらい、胸部の胸の骨折と筋肉の損傷やその他の傷はすっかり治っており元気だった。やっぱりリディが気づけていない骨折があったのか、とアルフォンスがちゃんと診てもらえたことには安心する。
「……リディから侯爵子息を助けたとは聞いたが、気絶していた子息を起こして、救護班に連れて行っただけのはずだが」
「そうだよ、パパ。傷を治したりは私にはできないもの。アルフォンス君がそう感じたなら、気のせいだと思うのだけど」
「い、いえ! 俺は傷を治してもらったのは覚えていなくて……でも、猪に頭突きされて、足が折れたような気が……」
「ええ? 頭突きされたところを私も見たけど、尻餅付いてたアルフォンス君のお腹を頭突きしてたよ? たぶん、勘違いじゃないかな」
「……そうだったような気も?」
アルフォンスは首を傾げながら、そう言った。あの時は、痛みで記憶が混濁していたはず。このまま勘違い方向で話を進めよう。
「リディが光の魔法が使えるなどと噂があるらしいが、馬鹿らしい。俺の娘が完璧だから、他にも使える魔法があるなどといった噂を増やしたくなるのは分かるがな」
「ええ!? パパ、完璧なんて、そんなっ」
「しかも、人助けまでする優しさもある」
「やだ、パパ! 褒め過ぎ!」
リディは大げさにパパの腕に抱きつき、そしてマリオット侯爵に顔を向けて苦笑した。
「確かにアルフォンス君を救護班まで連れて行ったので、助けた内に入るかもしれませんから、マリオット公爵の感謝の意は素直に受けます。ただ、光の魔法が使えるなんていうのは、ありえなさ過ぎて反応に困ってしまいます。アルフォンス君を助けたことに付加価値まで付けられると、恥ずかしいです」
「……そうでしたか。確かに、傷を治してもらったというのは半信半疑でした。とはいえ、息子を助けていただいたことには変わりませんから。ぜひ御礼をさせてください」
マリオット侯爵からリディはプレゼントを貰ってしまった。かなり高そうな宝石が付いたイヤリングである。他にも渡されたが、それは辞退した。『救護班のところまで連れて行った』ということに対する謝礼には過大評価過ぎるからだ。
マリオット侯爵親子の帰り際、フェルナンだけ応接室に戻ってきた。
「リディ、アルフォンスを助けてくれて本当にありがとう。俺、なんでもするから、困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」
「……うん」
フェルナンは去っていった。
うーん、フェルナンはリディの言い訳をあまり信じていないのかもしれない。マリオット侯爵も、完全に信じたわけではななさそうだったが、それを飲み込んだのだろう。
とりあえず、今日は乗り切った、と言っていいかもしれないが、明日、きっと学園でも話題になっているのだろう、とリディは明日が来るのが怖い。じわじわと目が熱くなるのを感じる。
「リディ」
パパに顔を向けると、パパがリディを抱えて膝に乗せた。そしてリディを抱き寄せ、頭を撫でてくれる。
「泣き虫なのは、大きくなっても変わらないな」
「……泣いてない」
「ああ、そういえば、よだれだと言っていたな」
「……うん」
「そうか。……マリオット侯爵のことは、リディが気にする必要はない。俺がどうにでもする。あと勝手に噂を流した奴は、相手が誰か分かった」
「……え、そうなの?」
リディは顔を上げた。
「狩りのために地方から出てきただけの下級貴族だった。パーティーで酔っぱらって、天使がいたとか吹聴していたそうだ」
「……天使?」
「リディが傷を癒しているのを見て、のぼせ上がったんだろ。俺の娘は可愛いし、天使のようだからな」
パパはリディの涙を拭ってから、リディの頬を撫でた。
「『虚言癖』のある下級貴族は、明日にでも帝都を出ていく。明日から数日は学園でリディに何か聞いてくる者もいるだろうが、さっきのように対応すればいい。噂など数日程度で収まる。多少は噂は残るだろうが、堂々としていればいい」
「……うん」
「……あとは、念のため、しばらく回りには気を付けるように」
「……聖女狩りのことだよね」
「そうだ。噂とはいえ、聖女狩りの黒幕がリディに目を付けないとは限らない。今のリディなら大抵の事は自分で対処できるだろうが、厳しい場合は俺を呼べ。何のことを言っているか分かるな?」
「うん。ありがとう、パパ」
リディはパパに抱きついた。パパの首に顔をすり寄せる。
リディのやらかしを、パパはいつも怒らない。いつも心配かけて、ごめんなさい。それでも、パパがリディを思ってくれることに、ほっとする。
まだ心配掛けることはあるかもしれないけど、パパ、どうか、リディを見捨てないでね。




