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皇家主催の狩りが行われる日の朝。
帝都近郊の森の近くには、狩りに参加する貴族が大勢集まっていた。学園に通っている子もちらほらといるのを確認する。
この狩りの趣旨だが、昔、闇の魔法一族ラヴァルディ公爵家がメインに魔族討伐を担っていなかった時代、魔獣に遭遇すると、誰もが魔獣の対処が必要だったことから、魔獣討伐は重要な事柄だった。今はラヴァルディ公爵家がメインに討伐をしているが、魔獣討伐の重要性を一般の人たちが忘れぬよう、獣を魔獣に見立てて狩りをする催し物が行われるようになったのだ。
ただ、あくまでも動物を魔獣に見立てる狩りなので、魔法は基本使用禁止で、狩りは弓を使う原始的な狩りなのだ。剣も使っていいとはなっているが、基本は弓だ。
リディも弓と剣を持ち、男装で挑む。髪の毛は高い位置に結び、普段の魔獣討伐と似た恰好だった。
「リディ」
声を掛けられ、リディは振り向く。
「リュカ」
「やっぱり狩りをする側に参加するんだ。俺の獲物は、リディに贈ろうと思ったのに」
「そうなの? 残念だけど、陛下に贈るといいと思うわ。私も陛下に贈るつもりなんだ」
狩りは男女可能である。その狩った獲物は、狩り側に参加しない人で、見物に来ている人に贈ることができるのだ。昔はたくさん贈られた人は、名誉だとか言われる時代もあったらしい。また、贈られるのは昔は女性が多かったとか。
「そうする。リディは何班?」
「三班だよ」
「俺は一班だ。なんだ、場所も違うんだ」
森は広いが、狩りの動物の取り合いや、矢を人に当てたりすることを避けるため、三つに班が分かれている。場所も分かれていて、一班から三班まで一時間ずつ出発の時間も違うのだ。まさに、一日がかりの催し物なのである。
「一班なら、もうすぐ出発じゃない。気を付けてね。魔獣ほど危険じゃないと思うけど、怪我をしないようにね」
「うん。リディも怪我に気を付けて。リディは普段は弓は使う?」
「使わない……。ちょっと練習はしてきたんだけど、魔法のような正確さには程遠かった」
「ははっ、俺も。魔獣討伐の方が、魔法が使えて楽だよね」
「いえてる」
魔獣討伐の方が楽、とは、光の魔法一族のリュカや闇の魔法一族のリディなどの、偏った人だけの意見である。
もう出発するという一班のリュカに手を振る。それから、三班のリディはまだ時間があるので、レオを探すことにした。一班の中にはいないようだったので、まだ狩りの出発はしていないはずだ。
途中で、レオはレオ専用のテントにいると聞き、そこに向かって歩いていた。その途中、ベルリエ公爵が他の貴族と話をしているのに気づく。
ベルリエ公爵は、リュカを皇子にすることで、何かしようとしているかもしれない。そのようにパパに聞いていた。もしかしたら、今日もリュカがいるから、他の貴族に向けての何かのアピールをしているのかもしれないが、リディには考えもつかない。
リュカは友達だが、リディはベルリエ公爵は信用していないから、できるだけ近づかないようにしようと思う。
レオ専用のテントにやってくると、テントの前でレオの侍従が立っているのに気づいた。
「これは、ラヴァルディ公爵令嬢」
「こんにちは。レオポルド殿下はいらっしゃいますか? 少し話をしたいのですが」
「少々お待ちください」
テントの外で待っていると、テントの中から侍従が出てきた。
「中へお入りください」
「ありがとう」
テントの中は広かった。椅子やテーブルだけでなく、簡易ベッドまである。
レオはリディを見て、困ったような笑みを浮かべていた。
「リディ、いらっしゃい」
「……こんにちは、レオ」
なんだか気まずい。それもそうだ。これはリディが作り出してしまった気まずさだ。
レオに好きだと言われて、すでに一ヶ月が経過していた。リディが毎日レオのことを考えるだけでいっぱいいっぱいで、レオと会えば恥ずかしくて目を逸らしてしまったことが数回。この一ヶ月、レオとまともに話をしていない。
光の妖精ララに相談したことで、少しリディの中では考えがまとまり、そうするとリディとしても気持ちが落ち着いてきた。
リディはレオの前まで歩き、レオの片手を握った。
「この一ヶ月、レオと合った目を逸らしてごめんね。毎日、レオのことを考えてたら、恥ずかしくて目が合わせられなかったの」
「……俺の事、毎日考えてくれたんだ」
「うん。……それでね、レオの事は好きだけど、男の人として好きかは分からないの」
「……うん」
リディの手を握るレオの力がぎゅっと入った。
「でも、レオと一緒にいたいから、しばらく恋人として過ごしてみたいなって思って」
「…………本当に?」
「うん。……あの、こんな中途半端な答えでレオが嫌じゃなかったらだけど」
「嫌じゃない!」
レオはリディを抱きしめた。
「ありがとう、リディ! 大事にする!」
レオはリディを離すと、リディを抱え上げた。
「きゃぁ!? レオっ!」
「ごめん、嬉しすぎて!」
嬉しそうなレオを見下ろしながら、仕方ないなとリディを笑みを浮かべた。
「これからよろしくね、レオ」
「こちらこそ、リディ。好きだよ」
「わ、私も」
う。好きと言われると、まだ恥ずかしいかもしれない。顔が熱いと思っていると、レオは椅子に腰を下ろし、リディを膝に乗せた。これも少し恥ずかしいんですけど。
「重くないの?」
「まったく。リディは軽いから」
レオはまたリディを抱き寄せた。やっぱりレオはリディより全然大きい。本当に男の人なのだと、意識してしまう。ただ、このように抱きしめられるのは、リディは好きかもしれない。
「狩りがなかったら、このままリディをずっと抱えていたい」
「そういえば、レオは何班? 私は三班なんだ」
「俺は二班。班が違うんだね」
ということは、もうそろそろレオも狩りの準備をしなくてはならないのだろう。リディを離したレオの顔が、離れがたい、と言っているように見える。
「また今度、レオに会いに皇宮に行くから、そんな残念そうな顔をしないで」
そう言って、リディはレオの頬にキスをした。すると、レオが顔を赤くし、レオの口元を自身の手で塞いだ。え、待って。リディ的には、パパにキスするのと同じような感覚の意味合いだったのに、レオに釣られてリディも顔を赤くする。
「……リディは時々、大胆だよね……」
「そ、そうかな!?」
レオもリディの頬にキスを返し、結局二人はレオが狩りに行くまで、無言で互いに顔を赤くしているのだった。




