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ある週末の日、ラヴァルディ領のリディの自室で、リディは出窓に取り付けられている椅子に膝を抱えて座り、クッションを抱いていた。
「……っ、みゃぁぁああっ……」
クッションに顔を押しつけ、心の叫びが漏れた部分が口から飛び出す。なんだか恥ずかしい上に、顔が熱い。
レオに好きだと言われて、二十日以上経過していた。レオのことを思い浮かべて欲しい、と言われ、レオのことを考えるたびに、なんだか叫びたくなる。病気だろうか。
――リンッ
光の妖精ララが現れ、不思議な顔をした。
『また叫んでる。皇子のことを考えていたの?』
「……うん」
小さい頃から、仲良くしていたレオ。ずっと友達であり、弟のようであり、守ってあげなきゃって思ったり、なんだかずっと可愛い存在だと思っていたのに。
「この前のレオ、男の人みたいだったよね?」
『皇子はもともと男の人よ』
「そ、そうなんだけど……」
最初はいつものレオだったのに、途中から、好きだと言われたあたりから、知っているレオではないように見えた。抱き寄せられた時も、思っていたよりずっと体が大きくて、耳元で『好き』と言われた時は、なんだかぞくぞくとしてしまった。
「これからどうしたらいいんだろう……。学園でレオと目が合ったのに、逸らしちゃった……」
レオの顔を見たら、好きだと言われたことを思い出してしまい、恥ずかしくて、どうすればいいのか分からないのだ。
『そうねぇ……。皇子はちょっと複雑な顔をしていたわね』
「う……嫌いというわけじゃないの。……ごめんなさい」
レオのいないここで謝っても仕方ないのに。決してレオを避けたわけではないのだ。ただ、恥ずかしいだけで。
『きっと皇子も分かっているわ。もう少し待ってくれるわよ』
「……うん」
『それで、リディ的にはどうなの? 皇子が好き?』
「……好きだけど、男の人として好きかと言われると……わかんない」
『恋人ほしい! って言ってたじゃない』
「それはそうだけどぉ……なんかこう、パパの話とか聞いていると、恋人ってもう少し軽くできるものだと思ってたの……。クラスの子も婚約者ではなくて恋人がいる子は、もっと簡単に付き合っていたし。でも、レオのは軽く考えちゃいけない気がする」
結婚がどうとか言っていたし、レオの事をとても好きだと判断できないと、恋人になってはいけないような気がする。
『そんな風に難しく考えなくてもいいんじゃない? 皇子も好きになってほしいって言っていただけだもの。とりあえず好きなら、恋人になってみてみたら?』
「で、でも……」
『恋人の始まりなんて、最初はきっと大したことないのよ。人間の恋愛って、私はよく分からない。けど、リリアナがセザールと付き合ったきっかけは、セザールが泣きながら好きだと何度も言うから、付き合ってあげたのよ~って言っていたわ』
「そうなの?」
『私もリリアナから聞いただけで実際には見ていないけど。でも、セザールがその話をするときは、リリアナを泣き落としたんだ~って、相槌しながらのろけてたのを覚えてるわ』
「そうなんだ!?」
恋人になるきっかけが、そんなんでいいの? と、父と母の馴れ初めを初めて聞いたので、ちょっと面白い。しかも、父が母を泣き落とすなんて、想像できてしまう。
「じゃあ、例えばレオと恋人になったとして。恋人になっても、結婚できるか分からないでしょ? レオは結婚したいって言っていたけど、結婚できるか分からない状態なのに、恋人になってもいいの?」
『まだそこまで深く考えなくていいと思うわ。結婚なんて、まだ先でしょ。レナートが反対するかもしれないし、その辺の貴族だって、婚約して婚約破棄なんて話題豊富じゃない。みーんな、くっついたり離れたりしてるわ。でも、最初から別れなんて考えている人なんて、少ないと思うわよ。だから深く考えなくていいわよ~。私は、リディの人生なんだから、リディが好きなように楽しく生きてくれたらいいわ』
「ララ……」
光の妖精ララはずっとリディを見守ってくれている、母代わりになってくれた大事な家族なのだ。いつもリディを見守って、リディを心配してくれている。
「……そうね。ララの言う通りかも。……レオと恋人になってみようかな……」
レオのことは好きなのだ。今まで男性だと意識していなかっただけ。でも、好きと言われて意識してみると、レオにまた好きだと言われたいと思う気持ちはある。
『いいと思うわ~。まあ、レナートは駄目と言うかもしれないから、言わないほうがいいと思うけど』
「……パパはやっぱり反対するかな?」
『するでしょ~。まあ、皇子が相手でなくても反対するでしょうけどね。男親なんて、そんなもんよ!』
「……パパには内緒にしとこ」
『それがいいわ~。リディには私がいるもの! 恋愛は私が相談に乗ってあげる!』
「ありがと」
張り切っているララに笑みを向けた。
昔はララにばかり相談していたけど、パパができてからは、色々とパパに相談することが多い。それがララは少し寂しかったのかもしれない。
ララとの出会いは、まだリディが一度も回帰していない、一度目の人生の時。
リディが二歳の時、母が馬車の事故で亡くなった。母の死で光の精霊との契約がリディに移行された。母の死が理解できなかったリディが、「ママがいない」とずっと泣き、悲しみに暮れた父も泣いていた。そこに心配した光の精霊ララが、母の声でリディの頭の中で声を掛けてきたのが最初だった。
その頃は、まだ初めての人生で精霊が何かも理解しておらず、死が何かも分からず、ただ頭の中に聞こえる母の声のララを、母だとリディは勘違いした。それからリディは頭の中の声をしばらくの間、母だと思っていた。それから、成長するにつれ、ララが母ではなく光の妖精だと気づくのだけれど。
それからずっとララは何度回帰しても、リディとずっと一緒にいてくれる大事な家族だ。
「いつも話を聞いてくれて、ありがとう。ララ、大好き」
『私もよ!』
リディに頬ずりするララに笑みを向けるのだった。




