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公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです  作者: 猪本夜
第三章 アオハル編

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83/111

83 ※リュカ・ベルリエ公爵子息視点

 ――パシッ


 ベルリエ公爵邸のある一室。リュカは義母のベルリエ公爵夫人から平手打ちをされたところだった。


「ローズが修道院に送られたのは、あなたのせいよ!」


 裁判の結果を受け、今日、ローズは牢から修道院に送られたと聞いた。結局、ローズは、事件を起こしてから、一度もベルリエ公爵邸へ帰って来ることはなかった。


「ローズのせいなのに、俺のせいにされても困るのですが」

「あなたのせいでしょ! 以前にもローズがリディ・ラヴァルディを嵌めたなどと、言ったそうじゃないの!」

「本当のことですから。言っておきますが、それを言わなかったとしても、結果は変わらなかったと思いますよ」


 再びリュカを平手打ちしようとした義母の手を、打たれる直前に捕まえる。


「今回の件は、ローズが自ら起こした行いの結果です。だから父上もローズの裁判結果に口出しはしなかったでしょう」

「あなたがローズの味方をしなかったからでしょう! ここまで育ててやった恩を忘れて――」

「……っはは。恩? 義母上やローズが、俺に何をしたのか覚えていないのですか? 下剤や痺れ薬は日常茶飯事、外に置いてけぼり、地下室に閉じ込め、階段からも突き落とされたことがありますね。殴られたり蹴られたり物をぶつけられたり、他にも色々やられていますが、そのどこに恩を感じろと?」

「あなたっ……」

「分かっていますよ。父上が唯一愛する女性の息子が嫌いなのですよね? 俺は父上に愛されていない義母上とローズが、ずっと不憫でした」


 殺すような視線で睨む義母に、リュカは笑みを浮かべた。


「俺が憎いですか? 俺だって父上に愛されていないのは分かっていますよね? ……まあ、それとこれとは別だと言いたいのでしょう。義母上は、眠ったままなのに父上の関心を一身に受けた俺の母上が憎いのですよね。母が死んだ今でも。……唯一愛する女性の息子の俺を、なぜ父上は嫌うのか、義母上は知っていますか?」

「そんなの、あなたのせいであの女が目を覚まさなかったからでしょ……!」

「まあ、そうなんですけど、それだけじゃないんですよ」


 リュカは義母の手を離した。


「もうすぐ、その理由を義母上も知ることができると思います」


 父がリュカを憎む本当の理由。憎むくせに、リュカを利用しようとリュカを育てた理由。


「では、俺は行きますね」


 リュカは義母に一礼すると、その場を去る。屋敷の廊下を歩いていると、使用人がリュカに近寄った。


「旦那様がお呼びでございます」

「……分かった。すぐに行く」


 リュカが父の執務室へ行くと、父は執務机から顔も上げずに口を開いた。


「例の件、十日後に決めた。準備をしておくように」

「十日後……少し早すぎるのではないでしょうか。ローズの件が終わったばかりだというのに」

「構わん。何のためにラヴァルディに土地を渡したと思っている。この件をこれ以上長引かせないためだ。ローズの件がなければ、すでに事を実行した後だったのに。ローズは余計なことをしてくれた」


 舌打ちしながら、父はやっと顔を上げてリュカを見た。


「……なんだ、その頬は。十日後はその顔で出たりしないだろうな」


 義母に叩かれるなどいつものこと過ぎて、リュカは今、平手打ちされたことを思い出した。リュカは平手打ちされた頬に手をあてる。そして光の魔法の癒しの力で、頬の痛みと腫れと傷を取り除く。


「失礼しました。十日後は問題ありません」

「いいか、準備を怠るな。あちらは魔法は使えないのだぞ」

「分かっています」


 きっと、リュカが義母に平手打ちされたと予想ついただろうが、父は何もそれについては触れない。いつものことだ。


「とにかく、ローズの件はあれで手打ちだ。ラヴァルディには例の件は口出しさせない」

「……いくらローズの件とはいえ、あの土地を、父上がすんなり渡すとは思っていませんでした」


 父がラヴァルディ公爵にローズが迷惑をかけた詫びとして渡した土地は、ベルリエとしても重要な土地で、あそこをいとも簡単に渡すのは、リュカとしてはどこか父らしくないと納得いかない部分があった。


「どうせ今回だけの、いずれ戻って来る土地だ。多少の大盤振る舞いで、ラヴァルディが口出ししないなら安いものだ」

「……戻って来る土地?」


 リュカは怪訝に思った。父に色々と命令されているリュカだが、父の計画の全てを知っているわけではない。


「お前が気にすることではない。それよりも、十日後の件の後のやることは分かっているな?」

「はい」

「抜かりなくやるように。多少の実験も必要だから、お前が掛けられる時間は多くはない」

「分かっています」


 去れ、という父の言葉で、リュカは執務室を後にした。リュカは廊下を歩きながら、いよいよかと少し緊張する。


 リディは十日後、きっと驚くだろう。リュカのことをどう思うだろうか。しばらくリディと話せる機会が減るかもしれない。


 十日後の計画は緊張するが、リディの反応がもっと緊張するな、と思った。

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