68 ※レナート視点
週末の真夜中、魔獣の大量発生の連絡があり、レナートはいつものように討伐へやってきた。しかし、今日は週末で帝都から帰ってきていたリディがいたため、一応起こしたところ、一緒に討伐に付いてきた。
昔、リディがまだ小さい頃、夜中の魔獣討伐で寝ていたリディを屋敷に置いて行ったら、置いて行くなと号泣されたことがある。それからは、たとえ夜中でもリディを起こすことにしている。
リディが付いてきていることもあり、今日の討伐の主戦力はリディだ。黒騎士団が魔獣討伐している横で、リディは闇の魔法の影を出し、魔獣を地下世界へ引っ張り込んでいる。
「いやっ!? 何よ、あれ! ムカデ!? ムカデなの!? 足が気持ち悪っ」
「ぃやあぁぁぁ!? ナメクジみたいなのもいるぅうぅぅ」
「うにゃ!? 跳ぶなんて反則!」
リディは独り言が多い。今日も今日とて、魔獣に文句を言いながら、半泣きで順調に魔獣を討伐している。まあ、影を使って地下世界へ引っ張るのは、魔獣を生きたまま地下世界に返しているだけなので、厳密には討伐とは言えないが。
今日の魔獣大量発生の場所が悪かったらしい。地下世界の、地上の虫に似た魔獣の巣の近くに、地上へ続く穴が開いてしまったのだろう。巨大な虫が蠢き、今日のリディはいつもより狼狽えている。
レナートはリディの討伐を見ながら、リディが地下世界へ引っ張り損ねた魔獣を討伐していく。それにしても、眠い。レナートは寝付いたばかりの時に起こされたので、欠伸が止まらない。
しばらくして、魔獣の討伐が終わった。リディが走ってきて、ほとんど泣きながらレナートに抱きつく。
「今日は最高に嫌い系の魔獣ばかりだったぁ」
「お疲れ」
リディを抱きしめながら、このまま抱き枕にでもして、立ったまま寝れそうだ。そう思っていると、ブリスが近寄ってきた。
「兄上、後処理の方は我々のほうでしますので、リディと先に帰っていいですよ」
「そうか、任せた」
リディの闇の魔法で、いったん地下世界へ二人で移動する。リディがレナートの腕に腕を絡ませながら歩き、まだ半泣きでぐずぐず言っていた。
「今日の虫みたいなの、あんなにいたら気持ち悪いと思うの! 怖いし、黒騎士団のみんなは、何で平気そうなの? パパも何ともない?」
「魔獣は魔獣だろ。牙があろうが、虫だろうが、飛ぼうが、全部魔獣だ。変わり映えしない」
「姿かたちがかなり違うよ!? パパにはまさか魔獣が全部同じに見えているわけじゃないよね? 私はもうちょっと可愛いのがいいな」
そう言って、リディが立ち止まった。
「……どうした?」
「癒しが欲しい! あのね、そろそろ生まれているんじゃないかって思うのだけど、パパ、一緒に見に行って?」
「俺は眠いんだが」
「お願い、パパ! ちょっとだけ! 生まれていなかったら、すぐに帰るから!」
「……」
「パパぁ!」
リディのおねだりで仕方なく、レナートは地下世界の中の別の場所に移動した。
赤黒い岩山の頂上付近から、リディが少し離れた同じく岩山の間を確認して小さく歓喜の声を上げた。
「わぁ! 生まれてる! ね、パパ、見て!」
岩山の間には、猫のような巨大な魔物が子供を産んでいた。尻尾だけは蛇で、尾は五尾あって、そこだけは嫌だとリディは言っているが、垂れ目の瞳に短足姿がリディには可愛く映るらしい。あの猫もどきは、巨大で狂暴だから、地上に現れない限りはリディは近寄ったりしないが、見るだけならいつまでも見ていられると言っている。そのあたりのリディの好悪感覚の区分けが、いまだレナートは謎である。
やはり眠い。レナートは岩山の地べたに胡坐をかき、だらっと姿勢をくずすと、欠伸をした。そんなレナートにリディは気づくと、すぐさまリディはレナートに近寄り、レナートの胡坐の上にお尻を降ろした。
「……まだ見ていく気か?」
「五分だけ! それか十分!」
「なぜ増やす……」
寄りかかるところができた、と言いたげに、リディは背中をレナートへ預けた。レナートはレディのお腹に手を回し、リディの頭に顎を付ける。同じ年齢の子より少し小さめのリディは、レナートの腕の中にすっぽり入ってしまう。
「あのちっちゃいの、可愛いね! まだ目が開いていないのかな? 動きが可愛い!」
いつのまにか十六歳になったリディだが、大人に近づいているとはいえ、レナートからするとまだまだ子供だった。いまだ泣き虫は治らず、魔獣討伐は合格と言っていいのに魔獣嫌いで、レナートを見つけては走って抱きついてきて、甘え倒す。
数年前、ブリスが冗談のように、そのうちリディが思春期にでもなれば、親離れをするかもしれない、と言っていた。レナート自身が親離れが早かったこともあり、リディの親離れもそのうち来るだろう、という納得と、それとは別にショックな気分が沸いた。
冷めた子供時代を送ったレナートは、あの時のレナートと同じ目でリディに見られることもあるのか、と少し子供だった頃の自分を反省する気にもなったくらいだ。
しかし、今のところ、リディにその傾向はない。ラヴァルディ公爵家の後継者として、日々頑張り成長しているが、リディはまだまだ子供で可愛い。もうしばらく、このままレナートに甘えていて欲しい。
「重っ!? 頭が重い! パパ、今寝た?」
「……寝ていない」
「嘘! もう、パパ、あと少しだけ寝ないで! あと十分!」
「さっきも十分って言っていなかったか?」
一瞬、うとっとしてしまった。
あと少し、リディのわがままにも付き合ってやるか。レナートは欠伸をしつつ、リディの頭に再度、顎を乗せて、レナートにとっては特に思入れもない猫もどきをリディと眺めるのだった。




