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ルシアンのペットと戯れることになって数日。
リディはふさふさの毛を撫でていた。ルシアンのペットの頬である。とうとうリディはペットの顔を触れるようになったのだ。ルシアンに抱っこされてからでないと、まだ無理だけれど、一人じゃないから、怖いペットの顔も触ることができる。
「できるようになったじゃん! スゴイよ、リディ」
「うん!」
ルシアンのペットは、顔は怖いけれど、大人しい。魔獣討伐に参加していたペットは、ものすごく狂暴だった記憶があるけれど、今は普通にお利口な犬のように見える。
「ほう。ペットの顔に触れるようになるとは、さすが俺の娘だな」
「……っ、パパ!」
屋敷の裏庭でルシアンと二人でいたところ、パパとブリスがやってきた。パパはリディの頭を撫でる。
「エヘヘ! 私だって、やればできるんだ!」
「ああ。すごいぞ」
褒められて、嬉しくてニマニマしてしまう。
「ペットにも慣れたようだし、先日言っていた地下世界に行ってみるか」
「……えぇぇぇ」
「急に弱気になるな。リディなら大丈夫だ。俺も行くから。前に小さめで温和な魔獣の巣があると言っただろう。地上にいる小さい動物と、そんなに変わらない」
「……うん。頑張る……」
新しい魔獣かぁ、とリディはやる気が出ない。けれど、パパがリディをルシアンから受け取り、今度はパパがリディを抱き上げた。
パパとブリスとルシアンと一緒に、黒騎士団の訓練場まで来ると、パパの影が広がり、次の瞬間には、リディは地下世界にいた。
そこは、いつもどおり、赤黒い世界。ただ、リディが今まで見たような岩だらけではない。赤黒い草のようなものが、芝生のように広がっている。そして、ところどころ、赤黒い土のようなものが盛り上がっていて、そこに小さな穴があった。穴はそこかしこに複数ある。
「パパ、あれって、草? 変な色だけど」
「草だな」
穴の中から、何かが出てきた。濃い茶色の毛並みの、ぱっと見は狐のような小動物。耳らしきものは、左右に二つずつの計四つあって不思議だ。牙が上から二本鋭利なものが生えている。
「……狐に似ているね」
「そうだな。あれでも草食系だ。そのあたりの草が餌だな。ルシアン、一匹捕まえて来い」
「わかった」
あっさりと簡単に狐もどきを一匹捕まえたルシアンは、リディの元に走ってきた。狐もどきは、首根っこをルシアンに掴まれて、四肢と太い尻尾をバタつかせている。
「ほら、リディ。触ってみて。怖くないから」
「う、うん……」
ルシアンの言葉に、リディは恐る恐る狐もどきの尻尾を触ってみる。すると、狐もどきは『ぷぎゅぅぅ』と鳴きながら、大人しくなった。
「あれ?」
「さすが、リディ。コイツ、尻尾が弱点なんだ。尻尾触ると、力が抜けるらしい」
「えぇ!? ごめんね、狐さん!」
リディは慌てて、尻尾を離す。弱点を狙ったわけではないのだ。狐もどきは、また四肢と尻尾をバタつかせ始めた。
「全然怖くないでしょ」
「うん」
牙はあるけれど、狐のような愛嬌のある顔が可愛いかもしれない。
「リディ、こういう大人しい魔獣もいる。すべての魔獣を怖がる必要はない。特徴や性質や行動を覚えて、対処が分かれば怖くなくなる。少しずつ、慣れて覚えていけばいい」
「うん、パパ」
地上にいる動物と変わらないような魔獣もいるとは思わなかった。
リディは、過去の回帰の中で、魔獣に襲われて殺されたことはない。ただ、機会は少なかったけれど、魔獣を見たことはあった。どれもこれも狂暴で、すごく怖かった。魔獣に食われている人を見たこともある。だから、魔獣は全て怖いと思い込んでいたのだけれど、そうでないことを知った。
知識は必要なのだと、改めて思う。リディは魔獣のことも魔物のことも、ほとんど何も知らないから怖いのだ。
しばらく、狐もどきを触っていると、パパが口を開いた。
「近くにいる、他の魔獣も見てみるか」
「うん」
次に見た魔獣は、巨大な真っ赤な鳥。離れたところからパパに抱っこされて、鳥を観察する。なんだか鳥自体が燃えているような気がするのですが。焼き鳥にはならないのだろうか。
「あれは肉食の鳥だな。燃えているのは、今が子育て中だからだ。警戒しているから、今が一番狂暴かもな」
「パパ、早く離れよ!?」
「これだけ離れているから、そんなに慌てなくても大丈夫だ」
次に見た魔獣は、また鳥だ。今度はまん丸で、大人の人間くらいの背の高さだけれど、卵のようなシルエットをしている。何に似ているのか、といえば、梟だろうか。ただ、嘴がない。
「嘴がないけど、食事はどうやっているんだろうね?」
「気になるか? ……ああ、ちょうど、口が開きそうだぞ」
「え?」
梟もどきのお腹かと思っていたところが、大きく開いた。そして、近くの同じ梟もどきを丸のみしてしまう。
「……」
「あれは共食いするんだ。リディの嫌いな牙はないが、だいたいが丸のみだから、牙はなくとも関係ないな」
リディはさーっと青ざめて、パパの頬に頬をくっつけた。なんという、恐ろしい食事の仕方だ。ちびっちゃいそうです。
次に見たのは、灰色で手のひらサイズの、なんか毛がモコモコした何か。尻尾や四肢はなく、ただ丸いモコモコだ。よく見ると、触覚のようなものがある。
「あの魔獣は、本当に害がない。十匹くらいが集団で動く。食事は水だ。大人しいから、リディのペットにするか?」
「ううん、いい」
大人しくても怖いから、魔獣のペットはいりません。
その日は、パパたちとしばらく地下世界の魔獣紹介ツアーをするのだった。




