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公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです  作者: 猪本夜
第一章 幼女編

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 魔獣に慣れる訓練が順調に進んでいる頃、今度はパパが別の試練をリディに与えようとしていた。


「そろそろ、ヴァルバスと正式に契約しておくか」

「お化けは、いや!」

「お化けじゃない。悪魔だと言っただろ」

「もやもやってしてる!」

「正式に契約すれば、もやもやしなくなって姿が見えるようになる。そうすれば、リディも怖くなくなるだろう」


 もやもやとした黒い塊が浮いているのがいつも怖い。リディが怖がるから、パパはほとんどあのお化けを出すことはないけれど、リディは後継者、いずれ悪魔との契約は通る道なのだろう。それでも、やはり怖い。


 パパによると、ラヴァルディ公爵家の血筋は、代々様々な悪魔を服属させていて、契約は血自体にされているから、それが仮の契約となっている。だから、正式契約でないリディも、もやもやとした悪魔を見ることができている、ということらしい。


 お化けのような、もやもやとして見えるのがなくなる、というなら、早めに契約しておくほうがいいのかもしれない。


「ヴァルバスを出すぞ。いいな?」

「……」


 嫌、と言いたいのを我慢し、代わりにリディはパパに抱きついた。


「ヴァルバス」


 パパの声がしたと思うと、パパの横にもやもやなお化けが現れた。怖い。勝手に涙が出てしまう。


『なぁんだあ? 俺サマが現れただけで、泣きべそか!』

「黙れ、ヴァルバス。早めに契約してしまうぞ」

『フンッ! 仕方ねぇな!』


 ――ヴゥンッ


 空中に真っ赤な魔法円、魔法陣とも言う――が現れた。複雑な、よく分からない言語が組み込んである。


「xx xxxxxxxx xxxxx xxxxxx……」


 パパがよく分からない言語を口にしている。すると、何やら魔法円の一部に何かが加わった。


「リディ、自分の名前を声に出して言ってみろ」

「……リディ・ラヴァルディ」


 真っ赤な魔法円がさらに金色に光り、眩しくてリディは目を瞑った。そして、次に目を開けたら、眩しさはなくなり、魔法円もどこかに消えていた。


 契約は終わった? 様子を伺っていると、リディの目の前に何かが、ばっと現れた。


 ニ十センチほどの、真っ黒な人間と言えばいいのか。しかし、それは人間の形をしているだけの、真っ黒なシルエットというべき存在。頭らしき部分には、二本の角のようなシルエット、お尻には尻尾と思わしき紐状の先が三角のシルエット、口部分にはニヤけたような真っ赤な口、目の部分もニヤけたような真っ赤な目。


「……っ! ふぎゃやあぁぁぁぁああ! 魔物!」

「格下げされたな、ヴァルバス」

『なんでだよ! 俺サマのかっこいい姿に悲鳴あげやがって!』

「怖いぃぃぃ」


 お化けでなくなれば、怖くなくなるのだと思っていたのに。なんだ、あのシルエットだけの存在。怖い。怖すぎる。特にあの口と目が怖い。


「あっちいって!」

『なんだと!? 契約してやった俺サマを可愛がれ!』

「可愛くない! 可愛くないー!」

『何ぃい!?』


 ――リンッ


 光の妖精ララが現れた。


『ふふん! 可愛くない悪魔め! 可愛いっていうのはね、私のような者を言うのよ!』

「そうだそうだ!」

『何ぃ? そんな幼児体形の、どこが可愛いんだ!』

『悪魔なんかには、分からないわよね! この美が!』

「そうだそうだ! ララみたいに、可愛くなって!」


 ララに便乗して、可愛くなれと無茶振りする。せめてもう少し、目と口をどうにかしてほしい。

 怒っているのか、ヴァルバスはプルプルと震えていたが、急にヴァルバスが爆発した。と思った後、爆発後の煙みたいなのが消えた中から、何かが現れた。


「……か、可愛い」


 ニ十センチほどの小さな体、モチモチとした黒い髪の人間の幼児のような顔、背中には二枚のコウモリのような小さな羽、尻尾は先ほどのシルエットと変わらない。それが腕を組んで堂々と立っていた。


『これならいいだろっ!』

「……ヴァルバス、お前、そんなことできたんだな?」

『俺サマにできないことはない! ……っ、こら! リディ! 俺サマの頬をツンツンするな!』

「だって、可愛いもん」

『ふ、ふん! そうだろう、そうだろう! 今度から俺サマをもっと可愛がれ!』

「お前、悪魔の威厳がどうとか、昔言っていなかったか?」


 パパの呆れた声を聞きながら、リディは急に怖くなくなってしまった悪魔、もといヴァルバスをじっと見た。光の妖精ララのように、可愛い幼児である。


 ララとヴァルバスは、小さい可愛い同士で、何やら喧嘩を始めてしまった。


『あらあら、ちょーっと可愛くなったからって、調子にのらないことね! 見てよ、私のこの可愛い手! 背中の羽なんか、ちゃんと動くんですからね!』

『俺サマの手も可愛いだろぉが! ほら、よく見ろ! 足だって、靴の先がとんがってるんだぞ!』

『これだから美が分からない人は哀れね! とんがり靴なんて、可愛くないでしょっ!』


 何の喧嘩だろうか。可愛い選手権? ちまっとした可愛いもの同士が争っている様は、ただただ可愛いだけだ。


 なんとか悪魔ヴァルバスにも、リディは慣れることができそうだ。リディに平和が訪れるのだった。

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