表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/19

17.この国に、祝福を

 ―――――……あれから、3年後。



 私の国……、マクルーアはあの日から、四季豊かな国へと発展した。

 春夏秋冬。 その気候がもたらすものは、私達の国をどんどん変えていった。

 私自身も、呪いが解けたのと同時に冷え切っていた心が、殿下とルイ様のお陰でまるで雪解けのように解け、今では外交に顔を出したり、町へお忍びで出掛けたりもしている。


 私の噂も、いつしか“呪われ姫”ではなく、“陽だまりの次期女王様”と呼ばれるようになった。 ……自分でも言うのも恥ずかしいけれど。



 そう、私はこの三年の間で、マクルーア国初の女王へと即位することが決まったのだった。




 女王に即位する準備に追われ、てんやわんやの毎日を送っているのだが、ふとあの日のことを思い出す。



 “待っていてくれないか”。



 そう彼と約束したあの日以来、彼の姿をあまり見かけていない。

 話すことはなおのこと、殆ど彼とは顔すら合わせないのだ。



(つい彼が何処かにいるのではないかと探してしまう)



 町へ出れば、彼に会えるのではないか。

 お忍びで、彼もこの国へ遊びに来ているのではないか。

 彼の国へと赴くこともあったのだが、どうしてかまだ会えていないのだ。



(エルマー殿下のお城を訪れたことはあったけれど、いつもすれ違うように居なかった)



 ……まさか、あの約束を忘れているのかしら。

 それとも、嫌われたのかな。



 なんて考えるたび、私は頭を左右に振る。



(……ううん、エルマー殿下は必ず迎えに来てくれると約束してくれた。

 きっと彼も、城に戻って頑張っているはず。

 なら私も、頑張らなくちゃ)



 そう思って、日々を過ごすのだった。





 ☆




 そして、ついに即位式を迎えることとなった。

 白地に縁を金糸であしらわれたドレスを身にまとい、私は会場へと赴く。



(……殿下、何処かで見ていてくれたら良いな)



 なんて、ここには居るはずのない殿下を思い、苦笑いする。



(駄目よ、今日は即位式なんだから、集中しないと)



 そう自分に言い聞かせ、私は光り輝く会場へと足を運ぶ……―――






 会場での即位式を済ませ、お披露目のためにまた違う衣装に着替えを、と言われ、私は部屋を移動し着替えを終えた時、コンコンとノックをする音が聞こえてきた。

 従者かしら、そう首を傾げつつ、私がドアを開けば、そこにいたのは。




「……っ」

「ごめんね。 本当は、もう少し早く来られたら良かったけど……」



 迎えに来たよ、ローラ姫。



 そう3年前よりずっと、大人の男性になった彼をみて、私は思わず涙を零しそうになる。



「エルマー殿、下……!」

「本当に、遅くなってしまったね。 ごめんね」



 私は言葉に出来なくて、代わりに頭を左右に振る。

 ドレスやお化粧をしていなかったら抱きつけたのに、今それが出来ないのがもどかしくて。

 だけど、こうして目の前にエルマー殿下がいるのが未だに信じられなくて。



「……本当に、本当に、エルマー殿下なの?」



 私の言葉に、エルマー殿下は驚いたような顔をした後、やがてふっと微笑みを浮かべて「あぁ」と笑みを浮かべて言った。



「本当だよ、ローラ姫。

 ……俺だって、未だに君がこうして目の前にいることが信じられないけど。

 ……何度、何度この日を夢見てきたか。 なんて、俺が言える立場じゃないかもしれないけれど」



 そう肩を竦めて言う殿下に、私は笑ってしまう。

 私はその殿下の手を取ると、そっと撫でた。



「……温かい。 やっぱり、夢じゃないのね」

「! ……あぁ、夢じゃないよ。 ローラ姫」



 そう殿下は言うと、私の髪を一房すくい、その髪に軽く口付けた。



「……見ているから。 君が女王として、国民の目の前に立つところを。 必ず、見ているから」

「! ……とっても、嬉しい……!」



 私がそう言って笑えば、城や町中の鐘が鳴り響く。

 それは、私のお披露目の会が始まる合図で。



「! わ、私行かなくちゃ!」



 そう言いつつ、私の手は何故か、エルマー殿下の手から離れない。



「……あれ?」



 気が付けば、私の手は震えていて。

 エルマー殿下が離さないでいるわけではないのに、手が動かなかった。



「……ローラ」

「!」



 急に名前を呼ばれ反射的に顔を上げた私に向かい、殿下は微笑んで言った。



「大丈夫、君はもうあの時とは違う。

 胸を張って、自信を持って行っておいで。

 俺はこの目で、君が女王になることを見届けるから。

 ……それが終わったら、ゆっくりと話をさせてくれないか。

 あの“約束の場所”で」

「……!! えぇ、勿論」



 そう言うと、殿下はまた、私の大好きなあの陽の光のような笑みを浮かべてくれる。



「行っておいで、ローラ」




 その言葉に背中を押されながら、私は明るく太陽の光が照らし出す城のバルコニーへと、歩きだしのだった……






 そして、私の紹介が終わると、私は視界いっぱいに広がる国土と国民を前に、演説を始めた。



「数年前、私は“呪われ姫”として、この城で静かに暮らしていました」



 その最初の言葉に、民からどよめきの声が上がる。

 私はそれを制すように次の言葉を述べた。



「私が外に出れば大雪が降る。

 そんな“呪い”がかかっていると噂になり、私は城の外を出ることを一切せずに、皆さんの目の前に出ることはおろか、毎日を部屋の中で暮らしていました」



 今度はどよめきは起こらず、しんと静まりかえっている。



(……大丈夫、怖くない)



 私は少し息を吸ってからまた口を開いた。



「そんな生活をしていた私の目の前に、三年前、ある方が訪れました。

 その方は、私と正反対のように優しくて、誠実で。 まるで太陽のように眩しくて、私は最初、その方を避けていました」



 そう、今考えればエルマー殿下を避けていた理由は、エルマー殿下が眩しかったから。

 明るくて優しくて、何処までも澄んだあの青の瞳に見つめられれば、私の考えていることなんて見透かされてしまいそうな、そんな気がして。



「だけど、それでもその方は、私に手を差し伸べてくれました」



 “外の世界へようこそ、ローラ姫”



 あの日のように、真っ直ぐと私に向かって差し出してくれたあの大きな手を、私は一生忘れない。



「……今の私があるのは、その方と前国王であるお父様、今は亡き前王妃であるお母様、それからここにいる全ての方々のお陰です。

 本当に、有難うございます」



 そう言って王族としては前例のない行動ではあるけれど、私は頭を下げて感謝の言葉を口にした。



(……どう、思われるかな)


 こんな演説、聞いたことがない。

 私もそう思う。

 ……けど、どうしてもこの場で感謝を伝えたかった。

 自分の口で、私を温かく迎え入れてくれた、エルマー殿下、それからこの国の全ての人に。

 怖くて顔を上げられなかった。

 けれどその時、誰かが拍手をした。



 え、と顔を上げれば、それはエルマー殿下で。

 そんなエルマー殿下の拍手を皮切りに、人々の間にも拍手が広がっていく……




(っ、良かった……)



 そう心から安堵したのも束の間、今度は不意に私の体の周りを金色の光が包み込む。

 え、と私が驚いていたら、国民の中の誰かが呟いた。



「……これは、かつての守護獣さまの祝福……」




 その言葉に今度は、わぁっと歓声が上がる。



「女王陛下、万歳!!」



 その声が、城中に響き渡り、私は思わず涙を零す。

 泣いちゃだめだ、と私は自分を奮い立たせ、そっと涙を拭うと、精一杯の笑みを浮かべて両手を広げて言った。




「マクルーア王国の新たな未来に、祝福を……!」




 その言葉に再度、割れんばかりの拍手と喝采が、私を包み込んだのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ