↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/19

16.約束の場所

「わぁ〜……」

「これは凄いな……」



 私と殿下は、思わず感嘆の声を漏らす。

 何処までも続く花畑と一本道。

 遠くには私達のお城が見えた。



「……こんな光景、見たことがないわ……」

「俺も、初めてだよ。 雪景色も趣があって綺麗だったけど、まさかこんなに自然が豊かだったなんて」



 殿下の言葉に、私も同意する。

 話に聞いていたよりもずっと、素敵な光景が広がっていた。



「……本当に、本の世界の中に居るみたい」

「それに、あんなに城が近く見えたのも初めてだ」

「ふふ、本当ね」




 幼い頃外に出ていたときのことを思い出し、懐かしいと同時に新鮮に感じながら、私達はお城に続く一本道を、手を繋いで歩く。



(本当、あまりにも綺麗でいつまで見ていても飽きない……)



「あ、あそこにある木って、もしかして……」



 私は少し小高くなった丘の上にそびえ立つ木を指差す。

 すると、殿下は朗らかに笑って言った。



「! あぁ、懐かしいな。

 俺達の運命の場所」




 そう、私が記憶の夢の中でも見た、私達が落ちた崖に立っていた木だった。




「……あの木はずっと、私達を見守っていたのね」




 そうポツリと呟けば、殿下は笑って言う。



「あぁ、そうだね。 ……そうだ、あそこに少し行ってみないか?」



 寄り道しよう、そう言った殿下に私も嬉しくなって頷くと、その木まで二人で競争するように走ってみたのだった。




 ☆




「わぁ……! やっぱり、見晴らしが綺麗ね!」



 そう殿下に向かって言えば、殿下は嬉しそうに私を見る。



「……確かに、この光景を見れてとても嬉しいけど……、それより、君がこんなに笑顔になってくれてよかった」

「!」



 そう言って私の頰を撫でる殿下。



「……く、擽ぐったいわ」



 と恥ずかしくなって言えば、殿下はふふっと笑って言う。



「……何だかこうしていると、あの本を思い出すよ」

「? あの本って……、“君と約束の場所で”のこと?」



 殿下は「あぁ」と言って頷くと、ふっと思い出したように口を開いた。




「そういえば、君はあの本は全て読んだ?」

「いえ、まだ時間がなくて途中までしか……」



 私は折角貸してくれているのに申し訳なくてそう言えば、殿下は「いや、ゆっくり読んでくれれば良いよ」と慌てたように言うと、殿下は少し考えてから口を開いた。



「……ネタバレになってしまうかもしれないけれど、あの本の最後はハッピーエンドだということを、君は知っているだろう?」

「? えぇ」



 私は殿下の言葉に頷くと、殿下は少し考えた後口を開いて……、「いや」と口を閉じた。



「やっぱり今はやめておこう」

「?」



 そう笑っていう殿下に私は首を傾げれば、「気にしないで」とはぐらかされてしまう。



(? 何が言いたかったんだろ……)




 と気になった私だったけれど、聞いても教えてはくれなさそうだと思い、別の話を振ることにした。



「そういえば私達、幼い頃もここで出会ったわよね?」

「! ……ふふっ、本当だね」



 殿下は空を仰ぎ見、そして笑って言った。



「その点でも、ある意味“君と約束の場所で”に似ているね」

「! ふふ、本当だわ」




 そこでふとその本の再会したシーンの文章を思い出す。




 騎士が別れを選んだとしても、姫は忘れることが出来なかった。

 だから別れを選んだ騎士に、姫は言った。



 “例え貴方が私との別れを選んだとしても、私は諦めることは出来ない。

 ……もし貴方の心に、少しでも私の存在がいるとしたら、この場所に来て。

 私は貴方を、待っているから”



 その言葉を聞いた騎士は驚き、戸惑ったような顔をしたものの、やがて微笑みを浮かべて口を開いたのだった……。



 そして残された姫は言葉通り、隣国に帰ってしまった騎士を待ち続けた。

 “この場所に君を迎えに来る”

 そう約束してくれた騎士の言葉を信じ、姫はそこへ毎日通うようになる。


 騎士と出会った春。 色々な場所へ共に向かった夏。 城の中で様々なことを語り合った秋。 そして、姫の元を去り別れを選んだ冬……。


 幾度も月日は流れても、彼女は諦めなかった。

 騎士は必ず来てくれると、そう信じて。

 


(そこまでしかまだ読めていないけれど……、それまでの姫の気持ちが、痛いほど分かる気がする)



 私と同じように、姫は城から出ることはあまりなかった。 外は危険な場所だと教えられていたから。

 けれど、騎士と出会って彼女は、外は危険な場所より素敵な場所の方が沢山あることを知った。

 又、騎士のお陰で広い外の世界を知ることが出来た。



 “外の世界へようこそ、ローラ姫”



 そう殿下が青空の下で私に笑いかけてくれたあの言葉も、光景も、一生忘れない。



 



「……ローラ姫」

「?」



 エルマー殿下にそう呼ばれ顔を上げれば、私をじっと見つめていた。



「……殿下?」



 固まったように動かない殿下を不思議に思って、逆に名を呼べばゆっくりと口を開いた。



「……城に戻ったら、暫くは君も俺も大変な日々を送ることになると思う」

「ふふ、そうね。 この国が急に四季豊かになってしまったんだもの」



 そう笑って言えば、殿下も笑みをこぼす。

 そして、私の頰に手を添えて言った。



「……俺も、忙しくなってしまうかもしれない。

 君を、本の中のお姫様のように待たせてしまうかも」

「!」



(待たせてしまうって……、それは、私を……)




「……迎えに、来てくれるの?」

「!」



 そう小さく尋ねれば、殿下はふっと笑みを浮かべ、迷いなく頷いた。



「あぁ」



 だから、と殿下は私を見つめ、言葉を紡ぐ。



「それまで、待っていてくれないか」

「!」




(そんなの……)



 私は少し心配げに揺れる殿下の瞳を見て笑うと、そんな殿下の頰に手を伸ばして言った。




「えぇ、勿論……! 貴方が迎えに来てくれるのを、待っているわ。

 “この場所”で、貴方が来るのをずっと……! っ、ん」





 私が返事をし終わらないうちに、殿下の顔がいつの間にか近くにあって……、そのまま唇が重なる。

 甘く甘く、蕩けるようなそれに、私は身も心も委ねたのだった。




(……貴方が来るのをずっと、待っているから)




 だから必ず、私を迎えに来て。





 そう殿下に心の中で訴えかけたのと同時に、まるで私達を見守るかのように、幼い頃の記憶より大きくなった木が、風に吹かれて木の葉を揺らしたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。