15.未来に、祝福を
何処までも広がる、青い空に一面の豊かな花畑。
まるで絵本や絵画のようなその光景に、私は目を奪われる。
そして、思わず言葉が溢れ出た。
「き、れい……」
「「え?」」
私の呟きに、二人は聞こえなかったのか首を傾げる。
私は嬉しくなって思わずそんな二人に前のめりになって口を開く。
「素敵……! 私、こんな素敵な所、見たことがないわ……! 本当に、これがこの国の……、マクルーアの本来の姿なの!?」
そう思わず大きな声で言う私に、二人は顔を見合わせてからルイ様は笑いながら答える。
「うん、そうみたいだね。 僕のお爺様に聞いていた通りだ」
「え、ルイ様はこの景色を見たことはなかったのですか?」
私の問いに対して、ルイ様は苦笑いを浮かべて答える。
「うん。 “この魔法を使えば、元あるべき姿に自動的に戻る”と、呪文だけしか教えてもらえなかったからね。
僕もまだ生まれていなかったし、こうして見るのは初めてだよ」
その言葉に、私とエルマー殿下はもう一度、辺りを見回した。
つい先程まで冷たく、何処までも真っ白な銀世界だった場所は、今では考えられないほど色とりどりの花畑が一面に広がっている。
どんよりとした空も、雲ひとつない青空に変わり、本当に殿下の瞳を模したような空が広がっていた。
そして、凍てつくような風は、何処までも温かく、私達の頰を撫でていく。
「……本当に、素敵……」
「今頃皆驚いているだろうね」
そんな殿下の言葉を想像して、思わず私達は笑ってしまう。
一頻り笑い終えた後、ルイ様は私とエルマー殿下の手を握った。
「有難う。 君達に出会えたことは、絶対に忘れない」
そんな一生の別れのような言葉に、私は思わず言葉を発する。
「えっ……? ルイ様は、この先どうなさるのですか?」
「ふふっ、そうだね。 僕も、君達と同じように結婚適齢期だからね。
僕の愛しい恋人と結婚することにするよ」
「「え……?」」
そうルイ様がパチンッと指を鳴らせば、光の中に、ブロンドの髪を持つ女性の後ろ姿が映し出される。
その光景に私は思わずハッと息を飲めば、ルイ様は微笑みながら言った。
「有難う。
君達のお陰で、僕も愛を知ることが出来た。
……これからは、君達を阻むものは何もないよ」
「! ……と言うことは」
ルイ様は大きくうなずき、私に向かって言う。
「あぁ。 君の呪いはもう解けた。 君は、自由だ」
「「……!」」
私とエルマー殿下は顔を見合わせる。
ルイ様はふふっと笑うと、私達に向かって人差し指を突き出す。
「さて、君達への最後の魔法だ。
……ローラ・マクルーア、それからエルマー・ブラッドリー」
「「はい」」
私とエルマー殿下は名を呼ばれ、返事をする。
すると、私達の周りにキラキラと、宝石より美しい光の粒が舞う。 それに呼応するように、ルイ様の体もどんどん薄くなっていく。
その光景に驚く私達に向かって、ルイ様は笑みを浮かべて言った。
「君達の未来に、祝福を。
……また何処かで会えることを願っている」
「「!!」」
そうしてルイ様は、私達の目の前から姿を消した。
「……っ」
「? ローラ姫?」
急に色々な想いとともに涙がこみ上げてきて、私はエルマー殿下に抱きつく。
エルマー殿下は驚いたような声を上げたけど、泣き止まない私の背中を、ポンポンと諭すように、撫でてくれたのだった。
☆
「落ち着いた?」
「……えぇ」
そっと体を離すと、真正面にエルマー殿下のお顔があった。
「……エルマー」
私がそう昔のように名を呼べば、一瞬驚いたような表情をした後、昔と変わらない笑みを浮かべて私の名を呼んでくれた。
「私の可愛いローラ」
「!!」
それは昔、殿下がよく私の名を呼ぶときに口癖のように言っていた言葉だった。
私は何だか気恥ずかしくなってぎゅーっともう一度、思い切り殿下に抱きつく。
すると、殿下は困ったような笑いを漏らした。
「……あー、ローラが可愛すぎて辛い」
「!? え、エルマー殿下こそ…格好、つけすぎです」
「え!? そんなつもりはなかったんだけど……」
そんな変な会話をしていることに気付き、私達は思わず笑ってしまう。
そして、殿下は私の体を離すと、真っ直ぐと向き合って言った。
「……君の呪いが解けて、本当に良かった。
もし君が良ければ、城に帰ってゆっくりと、君と話をさせて欲しい。
……良いだろうか」
「……! 勿論!!」
私の言葉に、エルマー殿下は極上の笑みを浮かべ、私の腰に手を回し、くるくると私を抱き上げて回した。
そして私を下ろすと、見つめ合い……、どちらからともなく口づけを交わしたのだった。
☆
幸せな時間を過ごした後、殿下は、私から一歩遠ざかると、手を差し伸べた。
「さあ、ここからお城まで、冒険と行こうか」
「! えぇ!」
私は嬉しくなって殿下の手をとる。
そして殿下は笑うと、あっ、と口を開いた。
「ここから先の道は、俺も知らない土地が広がっているから、本当の意味で“冒険”だね」
「! ……ふふっ、それは楽しみね!」
私達は互いの手をしっかりと握る。
「行こう、ローラ姫。 皆が待ってる」
「えぇ!」
私達はそう言って笑い合い、明るく眩い世界へ一歩、踏み出したのだった。
(ルイ様、有難う御座います。
私はこの国を、この土地を、この国の民を、絶対に守ってみせます。
守護獣様方が守ってきたこの国を、エルマー殿下と共に……!)
そう、何処までも続く青い空に誓って……―――




