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無もなき歌  作者: かれら
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第四楽章 『霧の魔女』


霧雨を編む白い指

欠けた硝子へ月を沈める

眠り損ねた黒い鳥は

煙突の先で羽を閉じた



白樺だけが道を知り

濡れた靴音を隠してゆく

古い鍵を胸へ寄せれば

錆びた鐘の音が蘇る



窓辺に揺れる白い百合

その名を誰も呼ばぬまま

触れた指先 微かな棘が

遠い春だけ思い出させる



鐘は鳴らない 森の奥

灰色だけが朝を運ぶ

振り向くたび薄れてゆく

ひとり分だけ足跡を残して

霧は静かに袖を引き

風は名前を連れ去った

誰にも開けられぬ扉は

今も夜だけ待ち続ける



棚の薬瓶 曇る息

揺れる炎が名を忘れる

冷えた茶器へ落ちた雫を

白い花だけ見つめていた



遠い古城は夢となり

崩れた塔は森へ沈む

あの日拾った鉄の鍵は

まだ胸元で眠っている

名も知らぬ旅人ひとり

霧の手前で立ち止まり

私はそっと袖を引いて

何も告げずに見送った



鐘は鳴らない 森の奥

朝靄だけが窓を叩く

白い百合だけ咲き続け

季節さえ忘れた庭で

そして夜更け 硝子越し

小さな灯だけ揺れていた

あの日の春を知らぬまま

私は今日も花を束ねる

誰かが昔 私を呼んだ

そんな夢だけ胸に残る

あれが祈りか 呪いかは

霧だけが知っている



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