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第一楽章 『茨姫』
王よ 硝子越し伏せた眼は
赦しにも似た冬を宿し
銀の鏡へ触れた指に
音もなく白椿が咲く
縫い留められた白い袖は
春を知らずに夜を纏う
凍る睫毛へ落ちる雫は
誰にも届かぬ祈りとなる
玉座の影を渡る風は
煤けた燭台を揺らすだけ
名を呼ぶ声は遠ざかり
時計の針さえ眠りにつく
裂けた静寂を喰らう悲鳴
聖なる冠は灰へ還り
月は沈黙の刃を掲げ
茨の庭へ雪を降らせる
白い棘だけ伸び続け
鳥も歌うことを忘れ
閉ざされた城の窓辺には
ただ百合だけが揺れていた
錆びた鐘楼 零れる残響
石畳へ夜露を落とす
幼き夢を包むように
蔦は静かに壁を登る
燃え尽き損ねた星屑は
喪服の空へ縫い込まれ
紅い糸さえ凍りつく夜
誰も扉を叩かない
ただ一輪 硝子の奥
名も知らぬ花が開き
王の掌から零れ落ちた
古い鍵だけ冷えていた
裂けた静寂を喰らう悲鳴
王国の灯は眠りに沈み
月は誰にも赦しを告げず
白い茨を育ててゆく
千年先の朝靄へ
小さな祈りを埋めるように
窓辺へ残された一輪は
今も静かに咲き続ける




