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無もなき歌  作者: かれら
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Prologue 『吟遊詩人の唄』


――耳を澄ませ。

風は忘れても、石は忘れない。

白い花が咲く国のことお。

霧が名を奪う森のことお。

古い歌は、夜になると静かに目を覚ます。



北の果て 雪解けぬ丘に

棘だけを育む城があったという

春を待つ王女がいたとも

朝を迎えぬまま眠ったとも

鐘は七度鳴り

八度目を知る者はいない



旅人よ

朽ちた門を見つけても

白い花には触れるな

それは誰かの祈りであり

誰かの別れであるから



深い森 霧沈む谷に

灯火だけ揺れる家があるという

花を束ねる魔女がいたとも

名を持たぬまま笑ったとも

道を尋ねた旅人は

帰る頃には何かを忘れている



人は言う。

茨は呪いだったと。

人は言う。

霧は迷いだったと。

けれど歌は、何も答えない。



もし古い鍵を拾ったなら

胸へ仕舞いなさい。

もし白い百合を見つけたなら

そっと目を伏せなさい。

その続きを知る者は

風でもなく

鳥でもなく


――ただ、歌だけなのだから。



「国のことお」「森のことお」——古い吟遊詩人が語り継ぐような、柔らかく伸びる語り口を意図した表記です。

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