あたたかい食事-4
『(花も折らず実もとらず 。拙者、今日ではない故)』
テレビを見ていた渚は、眉間に皺を作っていた。
「(朝からテレビをつけっぱなしにしているけど、今日はどのチャンネルも、あのニュースを取り扱っていない。捜査に進展が無いのか、泳がされているのか…)」
テレビの人工的な光が、渚の心を一層騒つかせ、渚はテレビを消して、ソファの背もたれに全体重を預け、目を瞑る。
「(でも、あの人が騒ぎを起こしたおかげで、私は一華家から逃げることができた)」
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渚が椿の家に転がり込む三日前。
渚の思う〝あの人〟は、MRとして勤めている大手製薬会社から、重大なサプリを持って逃亡した。
サプリというカジュアルな呼び方をしているが、それは一華クリニックと製薬会社で共同開発をした秘薬であり、製薬会社の中でその存在を知る者は、ごく僅かな人間のみ。
ごく僅かといっても母数が大きいため、一定数の関係者が存在するのだが。
そのごく僅かな人間のうちの一人である、あの人が逃げたことで、渚を縛るたくさんの視線が、一斉に逸れる時間が訪れた。
緊急事態で、誰も渚の存在に意識が回らなかったのだ。
家に一人取り残された渚の中に、自分を管理する者たちは、すぐには帰ってこないという確信と自信が湧いてきた。
だから、ちょっとした肩掛けのスポーツバッグに、下着と無難な服を2〜3着と、現金で溜め込んでいたまとまった金額のお小遣いを封筒に詰め込むと、バッグの底に忍ばせた。
そして、一華邸の裏にタクシーを呼ぶと、少しでも足取りを掴まれるのを遅らせるために、発信履歴を削除し、スマホの電源を切って置いていった。
タブレットも、位置情報を管理されているから持ってはいけない。
そうして、渚の通信手段は無くなった。
渚を乗せたタクシーは、高級住宅街をスルスルと走り抜け、最寄駅から二駅ほど離れた場所で電車に乗り換え、雑多な都心へと移動したあと、すぐにビジネスホテルにチェックインした。
「(ずっとホテルに居続けるわけにはいかない。早く椿を見つけなきゃ)」
渚は、最初から椿をターゲットにしていた。
有名モデルの椿がサプリの顧客候補に上がったと、研究員が話しているのを聞いたことがあり、有名人だったため、渚の印象に残っていたのだ。
ホテルにチェックインし、緊張を解いて冷静になるのを待ってから、近くにあるネットカフェに向かった。
椿の居場所を絞るためだ。
有名人だからこそ、特定するのにそう時間はかからない。
所属事務所、撮影スタジオ、目撃情報の多い高級ブランドが並ぶ街、そしてあの喫茶店がある町。
そうして、思い当たる場所を回り回って、三日目で、あの喫茶店で椿と出会うこととなる。




