下僕は増えるよ、どこまでも
「ギャオオオ……」
キング・ベアの巨体が、ズシンと音を立てて地に伏した。
戦闘時間、わずか数十秒。
ベルンが脚の腱を切り裂いて体勢を崩させ、その隙にアリアが特大の『雷撃』を脳天に叩き込むという、無慈悲な連携プレーの結果だった。
「ふぅ。お疲れ様、お兄様」
「アリア様もお見事でした! あのタイミングでの雷撃、痺れました!」
兄妹はお互いを讃え合う。
そしてアリアは、横たわる巨大な熊の死体に近づくと、小さな手をペタリと触れた。
「『収納』」
次の瞬間、5メートルを超える巨体が、シュンッという音と共に跡形もなく消滅した。
アキラの知識によって解放された、容量無制限の『亜空間収納』スキルだ。本来なら高レベルの空間魔術師しか使えない代物だが、アリアにかかればこの通りだ。
「……消え、た……?」
「馬鹿な……マジックバッグだって、あんなデカいもんは入らねぇぞ……」
部屋の隅で腰を抜かしていた騎士二人が、震える声で呟く。
彼らの理解の範疇を、今日の出来事はあまりにも超えすぎていた。
アリアはクルリと振り返り、ニッコリと微笑んだ。
天使のような愛らしい笑顔。だが、今の彼らにとっては、死神の微笑みにしか見えなかっただろう。
「ねえ、騎士のおじ様たち」
アリアがトテトテと近づいていく。騎士たちは反射的にズルズルと後ずさる。
「き、今日のことは他言無用で頼む……! 俺たちは何も見てない! な!?」
「そ、そうだ! 坊ちゃんと嬢ちゃんは、入り口で遊んでただけだ!」
必死に記憶を改ざんしようとする騎士たちに、アリアは首を横に振った。
「ううん、違うの。そうじゃなくて」
アリアは彼らの目の前で屈み込み、その瞳を覗き込んだ。
「ねえ、強くなりたくない?」
「……は?」
唐突な問いかけに、騎士たちが固まる。
「あなたたち、弱すぎよ。公爵家の騎士なのに、あんな雑魚ウサギにビビって、私とお兄様を盾にするなんて」
グサリ、と痛いところを突かれ、騎士たちが押し黙る。
「でも、見込みはあるわ。最後まで逃げずに(腰を抜かしてだけど)ここにいたもの。だから、チャンスをあげる」
アリアの瞳が、怪しく輝いた。
「強くなりたいわよね? なりたいわよね?」
それは質問ではなく、強制だった。
拒否権などない。
この秘密を知ってしまった以上、「共犯者」になるか、あるいは――アリアの小さな手が、意味深に空を握りしめる。
「……な、なれますか? 俺たちみたいな、落ちこぼれの騎士でも……」
一人の騎士が、ゴクリと唾を飲み込んで尋ねた。
彼らとて、騎士になった当初は夢があったはずだ。だが、現実に打ちのめされ、腐っていた。
今日、目の前で見せつけられた圧倒的な「力」。
五歳児と十歳児に可能なら、自分たちにもあるいは、という淡い、しかし強烈な渇望が芽生えていた。
「なれるわ。私の言う通りにすれば、ね」
アリアは自信満々に頷いた。
脳内のデータベースには、『効率的な騎士育成プログラム(地獄編)』というメニューが表示されている。
「お兄様だって、二年前は弱かったもの。ね?」
「はい! アリア様のご指導のおかげで、僕は生まれ変わりました!」
ベルンが良い笑顔で親指を立てる。
その笑顔の裏に、どれほどの血と汗と涙があったのかは、今は語るまい。
騎士二人は顔を見合わせた。
そして、覚悟を決めたように、アリアの前で膝をつき、深く頭を下げた。
「お、お願いします……! 俺たちを、強くしてください!」
「一生ついていきます、アリア様!」
『ピロン♪ 配下を獲得しました』
脳内で軽快な音が鳴る。
アリアは満足げに頷いた。
「よろしい。名前は?」
「ガイルです!」
「ロイドです!」
「いい返事ね、ガイル、ロイド。今日からあなたたちは私の直属よ。まずは……そうね、帰りの馬車を走って追いかけるところから始めましょうか」
「「えっ」」
「体力作りは基本よ? さあ、帰りましょう」
アリアはスキップしながら出口へと向かう。
その後ろを、新たな下僕となった騎士たちが、顔面蒼白で追いかけていく。
こうして、アリアの「最強への道」に、便利な手駒(兼、遊び相手)が二つ加わったのだった。
下僕、一気に二人増員。




