閑話 打倒鬱ゲー
その夜、アリアは夢の中でアキラと対面していた。
『アリア、思い出したわ。あのメルって子、別ゲーの主人公よ』
アキラが腕組みをして、空中にホログラムのようなウィンドウを表示させる。
そこには、ボロボロの服を着て、血まみれで剣を振るうメルの姿が映っていた。
『タイトルは【朱き月のレクイエム】。通称“S社の鬱ゲー”よ。主人公は狼獣人のハーフで、虐げられて育ち、スラム街へ逃げ込んでからは地獄の修羅ロード。……最終的には、どのルートを選んでも“発狂して世界を滅ぼす”か“惨たらしく死ぬ”しかないの』
「……なんですって?」
アリアは眉をひそめた。
あんなに可愛らしく、ガイルにしがみついていた少女が、世界を滅ぼす魔王候補?
『ちなみに、彼女は犬じゃなくて狼よ。本来ならその高い身体能力と魔力で無双するんだけど……』
「……ふぅん」
アリアは興味なさそうに鼻を鳴らした。
「潜在能力は高いのかもしれないけれど……今の私には、もう戦力は足りていてよ。ガイルもロイドも育っているし、何よりディーン様と…私がいるもの」
『ま、そうよね。アリア一人でラスボスもワンパンだものね』
アリアはニヤリと笑った。
「なら、決まりね。そのゲームの鼻っ柱をへし折ってやりましょう。メルさんには、修羅の道なんて歩かせない。ガイルとラブラブになって、幸せになってもらうわ!」
『賛成! 鬱ゲーなんてクソ食らえよ!』
アリアとアキラはハイタッチを交わした。
世界の命運を左右する「鬱ゲーのバッドエンド」が、アリアの一存で「ハッピーエンド(強制)」に書き換えられた瞬間だった。
「そうと決まれば、ガイルには『犬の飼い方』を教えてあげないとね。餌のあげ方とか、散歩の頻度とか、しつけの方法とか……」
アリアが真面目な顔でブツブツと言い出すと、アキラがジト目でツッコミを入れた。
『……ねえアリア。獣人は、どっちかと言うと“人”よ? ほぼ人間と同じ知能と感性を持ってるんだから、ペット感覚で扱っちゃダメよ』
「え? ……あら、私、悪いこと言ったかしら……」
アリアはキョトンとした。
てっきり、ペガサスのペガちゃんと同じように、飼育マニュアルが必要だと思っていたのだ。
『ガイルに必要なのは“飼い方”じゃなくて、“女の子の扱い方”と“獣人の特性への理解”よ。……まあ、あの二人なら放っておいても大丈夫そうだけど』
アキラは苦笑しながら肩をすくめた。
夢から覚めたら、アリアの世界ではまた騒がしい日常が待っているだろう。
鬱ゲーの主人公を「ガイルの嫁」にしてしまった最強令嬢の物語は、まだまだ終わりそうにない。
「ふふっ。明日が楽しみね」
アリアは満足げに呟き、深い眠りへと落ちていった。
窓の外では、サハルトの満月が、まるでメルの未来を祝福するかのように優しく輝いていた。




