筋肉の結婚式と、じれったい恋人たち
サハルト王国の結婚式は、やはり熱気に満ちていた。
青空の下、参列者たちの歓声と太鼓のリズムが響き渡る。
「兄上! おめでとうございます!」
「ああ、ありがとうシヴァ」
新郎のドガ皇太子は、いつもの上半身裸スタイルに、豪華な装飾品を身に着けている。
そして、その隣に立つ新婦。
「……美しい」
アリアは思わずため息を漏らした。
花嫁衣装は、サハルトの伝統的な薄布を纏っただけの露出度の高いものだが、それが彼女の肉体美を際立たせていた。
しなやかで力強い上腕、ドレスのスリットから覗く引き締まった大腿四頭筋、そして背中の広背筋のライン。
女性特有の柔らかさを残しつつ、極限まで鍛え上げられた「戦う女神」のような肉体。
(素晴らしいわ。あの筋肉なら、大型の魔獣とも素手で渡り合える……機能美の極致ね)
アリアが熱っぽい視線を送っていると、隣のディーンが不安げに声をかけてきた。
「アリア……やっぱり、ああいう筋肉質な方が好みなのかい?」
彼は自分の腕を見た。
アリアとの特訓で細マッチョにはなっているが、サハルトの人々と比べれば線が細いのは否めない。
「僕も……もっと筋肉をつけた方がいいかな? プロテインを飲んで、バルクアップを……」
「え?」
アリアはキョトンとしてディーンを見た。
そして、真顔で首を横に振った。
「いいえ。ディーン様はそのままで十分ですわ」
アリアはディーンの腕にそっと触れた。
「今のディーン様の筋肉は、スピードとパワーのバランスが完璧です。これ以上筋肉量を増やすと、貴方の長所である敏捷性が損なわれますし、魔力回路の巡りも悪くなる可能性があります」
アリアの脳内では、『最適解』という文字が輝いている。
「ですから、私は今のままのディーン様が好きですわ(戦闘ユニットとして)」
「……っ!!」
ディーンの顔がボンッ! と音を立てて赤くなった。
後半の括弧内の言葉など聞こえるはずもなく、彼の耳には「今のままの貴方が好き(LOVE)」という甘い言葉だけが届いたのだ。
「ア、アリア……! ありがとう、僕も……僕も君が好きだよ!」
「ええ、知っていますわ(相棒として)」
二人は見つめ合い、幸せそうに微笑んだ。
背景には、筋肉ポーズを決めて誓いのキスをするドガ夫妻がいるが、二人の世界には関係ない。
その様子を、数メートル後ろで見守っていた近衛騎士団長と、ガイル、ロイドたちは、揃ってため息をついた。
(……殿下、喜んでるところ悪いですが、アリア様は多分『性能』の話をしてますよ)
(うちのお嬢様、恋愛感情の回路だけ壊滅的だからなぁ……)
(でもまあ、幸せそうだからいいか……いや、やっぱりじれったい!)
「……隊長、胃薬持ってますか?」
「ああ、やるよ。俺も飲む」
騎士たちは、この最強にして最鈍感なカップルの行く末を案じつつ、サハルトの強烈な日差しの下で胃を押さえるのだった。




