珍客と、ブレない二人
地下50階層。最深部。
そこにいたのは、テカテカに光るオイルを塗りたくったような、筋肉隆々のオークキングだった。
そいつはアリアを見るなり、自慢の大胸筋をピクピクさせ、セクシーなポーズ(サイドチェスト)を決めた。
「ブモォォ……(いい女だ、俺の筋肉を見ろ)」
「……貴様」
アリアが「あら、キレがありますわね」と評価を下す前に、低い声が響いた。
ディーンだ。
彼は、アリアに向けられたその視線とポーズに、理性の糸をプッツリと切らせた。
「僕のアリアを……その汚い筋肉で誘惑するなッ!!」
ズバァァァァンッ!!
ディーンの剣から放たれた極大の衝撃波が、オークキングを筋肉ごと消滅させた。
一撃。文字通りの瞬殺。
「……は?」
後ろで見ていたドガとシヴァは、腰を抜かした。
あれは、サハルト王国の精鋭部隊30人がかりでも苦戦するはずの「迷宮の主」だ。
それを、ただの嫉妬パワーで?
「……兄上。あの国とは、未来永劫、友好的な関係を築こう」
「ああ、シヴァ。間違っても戦争など吹っかけてはならん。国が消える」
二人は固く誓い合った。
「ディーン様、お見事ですわ! ……でも、私も少し叩きたかったです」
「ご、ごめんアリア。ついカッとなって……」
膨れるアリアの機嫌を取ろうと、ディーンが頭を撫でる。
ボス部屋のど真ん中で繰り広げられるイチャイチャ空間。
そこに、しわがれた声がかかった。
「……あの~、お取り込み中のところ恐縮ですが」
「あら?」
振り向くと、そこに包帯を巻いた小さなマミー(ミイラ男)が浮いていた。
その姿は、このダンジョンの雰囲気とは明らかに異質だった。
「これ、クリア報酬です」
マミーは宝箱と、一枚の石板を差し出した。
「報酬は、ボスを倒した方(トドメを刺した嫉妬深いお兄さん)への権利です。……では」
マミーは意味深な言葉を残し、シュンとかき消えた。
アリアは首をかしげた。
宝箱の中身は予定通りの秘宝『砂漠の涙(水無限湧きアーティファクト)』だったが、あの石板と、あのマミーの存在が気になった。
***
その日の夜。
サハルト王城のベッドで眠るアリアの意識は、精神世界へと潜っていた。
「アキラ」
「やっぱり呼んだわね、アリア」
黒髪の少女、アキラが現れる。
「あのマミー、貴方の知識にあるゲームキャラ?」
「……いいえ。嫌な感じはしないんだけど、私の知ってる『蒼穹のアルカディア』のメーカーじゃないわね。もっと別の……アクションRPGが得意な『S社』のキャラに似てるの」
アキラは腕を組んで考え込んだ。
これまで、この世界は同じメーカーの複数のゲームがクロスオーバーした世界だと思っていた。
でも、あのマミーの出現は、根本的な世界構造の違いを示唆している。
「もし、全く違うメーカーのゲームが混ざり込んでいたら……」
「問題があるの?」
「……うーん。世界観が違うから分からないのよね。でも、ゲームと違って、この世界は現実だから、基本的には、強い敵が増えるくらいかしら。あのメーカーの敵キャラ、殺意高いし」
その言葉を聞いた瞬間、二人の目が合った。
そして、同時にニヤリと笑った。
「「問題ないわね!」」
アリアが拳を握る。
「もっと強くなれるってことだもの! 新たな敵、新たなスキル、新たなドロップアイテム……最高じゃない!」
アキラも頷く。
「そうね! 私も記憶の底から、あのメーカーの攻略情報を引っ張り出しておくわ。裏ボスの倒し方とか、隠しコマンドとかね!」
世界の謎? 違う世界観?
そんなことはどうでもいい。
最強を目指す二人にとって、それは「新たな遊び場」が増えたという吉報でしかなかった。
「ふふふ……楽しみね」
アリアは現実世界で寝言のように笑い、隣で寝ていたディーンをビクつかせた。
新たな脅威(経験値)の予感を胸に、アリアのサハルトでの夜は更けていく。




