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灼熱の迷宮と、隠したい秘密

サハルト王城、謁見の間。

アリアの要望を受けたディーンは、サハルト皇太子ドガにダンジョンへの立ち入り許可を求めていた。


「地下迷宮への立ち入り? それは困る。あそこは我が国の聖域であり、危険すぎる」

「そこを何とか。婚約者のワガママでもあるのですが。僕もダンジョンには興味がありましてね。」


ドガは渋い顔で首を横に振る。

ディーンは小さくため息をつくと、視線を部屋の隅で落ち込んでいるシヴァに向けた。


「……シヴァ殿下」

「ひっ!?」


ディーンは口元を動かさず、『風の囁き(ウィスパー)』魔法だけでシヴァの耳元に声を送った。


『……昨日の手合わせ、見事な下着でしたね。確か……可愛いイチゴ柄でしたか? アリアも「意外と乙女趣味なのですね」と笑っていましたよ。……この話を城中の侍女たちに広められたくなかったら、わかりますよね?』


「兄上ッ!! 許可を出してあげてくださいッ!!」


シヴァが突如として叫び、土下座の勢いでドガに懇願した。

ドガは弟の奇行に呆れつつも、何か弱みを握られたのだと察し、許可証にサインをした。


「……わかった。ただし、私も同行する。王家の監視が必要だからな」

「感謝します」


ディーンは爽やかな笑顔(腹黒)で許可証を受け取った。


***


そして、地下迷宮の入り口。


「まあ、素敵な熱気ですこと! まるでサウナですわ!」


アリアは、入り口から吹き上げる灼熱の風を浴びて、嬉々としていた。

彼女の装備は、見た目は涼しげなワンピースだが、素材は最高級の火竜の皮で作られた耐熱仕様だ。


「さあ、行きましょう! 目標は今日中に20階層です!」

「に、20階層だと!? 正気か!?」


ドガが驚愕する。

このダンジョンは、精鋭騎士団でも1日に1階層進むのがやっとなほどの難所だ。

出現するのは、猛毒を持つ『デス・スコーピオン』や、鋼鉄の糸を吐く『アイアン・スパイダー』などの凶悪な虫型モンスターばかり。


「大丈夫です。邪魔な虫は駆除しますから」


アリアが足を踏み入れた瞬間、天井から巨大な蜘蛛が降ってきた。

カサカサカサ……!


「うわぁっ! アイアン・スパイダーだ! 全員構えろ!」


サハルトの騎士たちが剣を抜くより早く、アリアの手が動いた。


「『重力圧殺グラビティ・プレス』」


ズドンッ!!


見えない巨大なハンマーで叩き潰されたかのように、蜘蛛が一瞬で平べったい染みになった。


「次、行きますわよ」


アリアは止まらない。

通路を塞ぐサソリの群れには『氷結の息吹アイス・ブレス』でカチコチに凍らせて粉砕。

溶岩の中から現れたサラマンダーには『水竜の咆哮アクア・ロア』で鎮火させて物理で殴る。


「……な、なんなんだあの女は……」

「魔法の詠唱速度がおかしい……いや、そもそも詠唱していないぞ!?」


後ろをついてくるドガとシヴァ、そして騎士たちは、ただただ口を開けてその暴虐を見守るしかなかった。

彼らの出番などない。あるとすれば、アリアが倒した魔物の素材を回収する「荷物持ち」としての役割だけだ。


「ガイル、ロイド。サソリの尾は解毒薬の材料になるから回収して」

「へい! お任せを!」

「ディーン様、そこの隠し通路の先に宝箱がありますわ」

「わかった。罠解除してくるよ」


アリア陣営の手際の良さは、職人芸の域に達していた。

ドガは額の汗を拭いながら、隣を歩くシヴァに話しかけた。


「……おい、シヴァ」

「な、なんだ兄上」

「お前、あの方を『病弱で可憐』と言ったな? 眼科に行け」

「……はい」


シヴァは死んだ目で頷いた。

目の前で繰り広げられる光景は、彼の初恋を粉々に粉砕するには十分すぎた。


「あら、もう20階層のボス部屋ですわね」


アリアが立ち止まる。

そこには、巨大な鋏を持つ『エンペラー・クラブ』が待ち構えていた。

アリアはニッコリと笑い、インベントリから巨大なハンマーを取り出した。


「今夜はカニ鍋にしましょうか」


その言葉が、ボスの断末魔となるのは時間の問題だった。

サハルト王国の地下深くで、アリアの伝説がまた一つ刻まれたのである。

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