閑話 皇太子ディーンの(異常に)充実した一日
これは、かつて「普通の皇太子」だった男が、いかにして「最強の執事系婚約者」へと変貌を遂げたかの記録である。
【1周目の世界線:ある日のディーン】
AM 7:00
起床。侍女に起こされるまで眠る。
「……ふわぁ。まだ眠いな。今日の授業、サボりたい」
AM 9:00 - PM 3:00
学園生活。
退屈な授業を適当に聞き流す。昼休みは取り巻きたちとお喋り。
「アリア? ああ、彼女は真面目すぎて息が詰まるよ。もっと可愛げがあればいいのに」
PM 4:00
(リナに出会って洗脳後)
公務の時間だが、執務室には行かない。
書類の山は全てアリアの元へ送ってある。
「リナ、今日は街へショッピングに行こうか。公務? ああ、アリアがやっておいてくれるさ。彼女はそういうのが好きみたいだしね」
PM 8:00
優雅なディナー。
「将来のことは何も心配いらないな。僕は王になり、リナと楽しく暮らすんだ」
空っぽで、怠惰で、破滅へと向かっていることすら気づかない、愚かな一日。
***
【2周目の世界線(現在):ある日のディーン】
AM 4:00
起床。目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。
長年の(アリアによる)スパルタ教育のおかげで、ショートスリーパーのスキルを獲得済みだ。
「よし、今日も良い天気だ。絶好のマラソン日和だな」
AM 4:30
バスク公爵邸に到着。
すでに準備万端のアリアと合流する。
「おはよう、アリア! 今日も美しいね!」
「おはようございます、ディーン様。さあ、今日は『岩山ダンジョン』を3往復してから登校よ」
「了解!」
AM 5:00 - 7:00
早朝ダンジョンマラソン。
岩山を駆け上がり、遭遇するサイクロプスを準備運動がわりに斬り伏せる。
「はぁ、はぁ、いい汗かいた! アリアの『加速魔法』のおかげでタイムが縮まったよ!」
「ええ。ですがあと5秒縮められますわ。明日の課題ですね」
「望むところだ!」
AM 8:00
公爵邸にて、アリアと共に朝食。
運動後の食事は格別だ。アリアの口元についたパン屑を、自然な動作でハンカチで拭ってあげる。
(……可愛い。至福だ)
AM 9:00 - PM 3:00
学園生活。
授業中、アリアが喉を渇かせた素振りを見せれば、サッと特製ブレンド茶(水筒持参)を差し出す。
「アリア、糖分補給のマカロンだよ。今朝焼いてきたんだ」
「まあ、気が利きますね。ありがとう」
移動教室では、当然のようにアリアの鞄を持つ。
周囲からは「殿下が荷物持ち……?」と引かれているが、ディーンにとっては「アリアの私物に触れられる貴重な時間」である。
PM 4:00
放課後。公務の時間。
「さて、この書類の山を片付けるか……」
帝王学はすでに修了しているため、処理速度は1周目の比ではない。
時折、アリアが執務室に顔を出し、「ついでだから手伝いますわ」とさらさらと決済してくれる。
「アリア……! 君は女神か!」
「いいえ、早く終わらせて『地下水路ダンジョン』に行きたいだけです」
そのツンデレ(と信じている)な態度すら愛おしい。
PM 6:00
公務終了(アリアのおかげで早めに終了)。
予定通りダンジョンへ直行。
「アリア、自由に攻撃してくれ! 君の魔法の射線は絶対に塞がない!」
完璧な連携でボスを瞬殺。
PM 8:00
公爵邸までアリアを送り届ける。
玄関先で、アリアの兄ベルンと遭遇。
「おっ、ディーン。今日のダンジョンはどうだった?」
「最高でしたよ、義兄上(予定)。アリアの『雷撃』がまた進化していて……」
「ほう! それは詳しく聞きたいな!」
かつては犬猿の仲(というより一方的に嫌われていた)だったが、今や「アリア様親衛隊」の同志として、熱い握手を交わす仲だ。
PM 9:30
王城に帰宅。
ここからが本当の勝負だ。
自室にて、紅茶の淹れ方の研究と、新作菓子のレシピ開発を行う。
「アリアはベリー系の酸味が好きだから……この茶葉との相性はどうだ? 抽出時間はあと10秒短く……」
アリアの「美味しい」の一言を聞くためなら、徹夜も苦ではない。
PM 11:30
就寝。
今日もアリアの役に立てた。アリアの笑顔も見られた。
充実感に包まれながら、泥のように深く眠る。
「……明日も、アリアのために強くなろう……むにゃ……」
彼は幸せだった。
たとえ傍から見れば「尻に敷かれている」ように見えても、「皇太子ともあろう者が…」と眉をしかめられても、彼にとってはアリアと共に歩むこの過酷な日々こそが、何にも代えがたい幸福なのだった。
アリアに毒されているディーンですが、既に国を動かす力は国王も凌駕してます。帝王学も終わっているし、戦闘力も破格。というか、未来の奥さんと並べばどの国もひれ伏すレベルですしね(笑)宰相や大臣たちはディーンに一目置いてます。




