完全なる防衛線と、無自覚な束縛
リナが決行の日を伺っている間、アリアは静かに対策を講じていた。
放課後の教室。
アリアは帰り支度をするディーンに声をかけた。
「ディーン様、少しよろしいですか?」
「は、はい! 何でしょうか、アリア様!あっアリア!」
名前を呼び捨てにするよう強要されているが、まだ慣れないディーンが直立不動になる。
アリアはポケットから、シンプルな銀のブレスレットを取り出した。
一見何の変哲もないが、その実態は『全状態異常無効』『精神干渉完全遮断』のエンチャントが施された、国宝級の防具だ。
「これ、プレゼントです」
「えっ……?」
ディーンが固まった。
アリアからのプレゼント? あの、スパルタ教育の権化であるアリアから?
「首輪」とか「電流が流れる腕輪」ではないのか?
「……普通の、ブレスレット……?」
「ええ。最近、物騒な噂もありますから。お守りだと思って身につけていてください」
アリアがディーンの手首にパチンと装着する。
ディーンの顔が、みるみるうちに赤く染まっていった。
婚約者からの、初めてのまともな贈り物。
「あ、ありが……ありがとう……! 大事にするよ、一生外さない!」
「ええ、外さないでくださいね。(外すと魅了されるかもしれないから)」
アリアの含みのある言葉も、舞い上がったディーンには「愛の言葉」に聞こえたらしい。
***
それから数日、ディーンは悩みに悩んだ。
「お返しに何を贈ればいいんだ……!?」
側近やベルンに相談し、最終的に選んだのは『魔石のブレスレット』だった。
それもただの魔石ではない。贈る相手の魔力と波長を合わせることで輝きを増す、最高級品だ。
「あ、アリア……これ、お返しだ」
ディーンは震える手で、深紅の魔石がついたブレスレットを差し出した。
その石には、ディーン自身の膨大な魔力がたっぷりと込められていた。(アリアの地獄の特訓のお陰でディーンのレベルもカンスト…)
この国において、異性に自分の魔力を込めた石を贈ることは、「貴方は私のものだ」「私の魔力(庇護)下に置く」という、強烈な所有宣言と独占欲の現れである。
だが、恋愛経験値ゼロのアリアと、ヘタレなディーンは、その意味に気づいていなかった。
「まあ、綺麗な赤色。ありがとうございます、ディーン様」
(へぇ、魔力貯蔵庫としても使えそうね。便利だわ)
「き、気に入ってくれたならよかった……」
(よかった……怒られなかった……)
二人は互いの腕にブレスレットをつけ、満足げに微笑み合った。
周囲の令嬢や側近たちが「うわぁ……」「熱烈ですね……」と顔を赤らめていることにも気づかずに。
***
一方、カイル先生の研究室。
「先生、闇魔法の応用についてですが」
「あ、アリア君! どうぞ入ってくれ!」
アリアが訪ねてくると、カイルは研究の手を止めて前のめりになった。
アリアは黒板にサラサラと術式を書く。
「精神干渉系の魔法に対する防御術式です。闇の衣で精神を包み込み、外部からの干渉を『飲み込む』イメージで」
「なるほど……! 弾くのではなく、飲み込むのか! 闇の特性を活かした逆転の発想だ!」
カイルは食い入るように術式を見つめ、すぐに指先で再現してみせた。
「こうか? ……おお、凄い。精神がクリアになった気がする」
「流石ですね、先生。習得が早くて助かります」
これでカイルも、リナの魅了アイテムに対する完全耐性を得た。
さらに、この防御術を身につけたことで、カイル自身の精神力も向上し、以前のような陰気なオーラが薄れ、どこかミステリアスで知的な雰囲気を纏うようになっていた。
「ありがとう、アリア君。君のおかげで、私はまた一つ強くなれたよ」
カイルの瞳は、アリアへの純粋な尊敬と感謝で輝いていた。
こうして、リナが動く前に、ターゲットたちの防御力(とアリアへの依存度)はカンストしてしまったのである…。




