禁断のプレゼントと裏社会の女帝
「……今回の野外演習における魔物討伐数は、ゼロだ」
学園長の沈痛な声が響く。
生徒たちはざわめいた。
「魔物が一匹もいなかったなんて」「天変地異か?」「平和でよかったけどさ」
そんな声の中、ディーンだけが頭を抱えて机に突っ伏していた。
(平和なものか……。あの山の向こうには、数千体の魔物の死体の山があったんだぞ……アリアが全部回収したけど……)
カイル先生は、教壇からチラリとアリアを見た。
彼女は「今日のランチは何かしら」といった風情で、優雅に窓の外を眺めている。
(……間違いない。あの魔力残滓、そして魔物たちの不自然な動き。アリアが何かやったんだ)
だが、証拠はない。あったとしても、この国の英雄である彼女を誰が裁けるというのか。カイルは深くため息をつき、見なかったことにした。
一方、リナは追い詰められていた。
(なんで……なんでイベントが起きないのよ! これじゃあただのモブじゃない!)
放課後。
リナは学園を抜け出し、路地裏の怪しげな店へと向かった。
前世の知識にあった「裏技」。
ゲーム内での課金アイテム『魔法のプレゼント』。
これを使えば、どんな相手でも好感度をMAXにできる最強のアイテムだ。
「……これ、ください」
薄暗い店内で、リナはなけなしのお小遣いを叩いて、禍々しいオーラを放つ小箱を購入した。
店主の老婆はニヤリと笑った。
「ヒヒッ……いい買い物だよ、お嬢ちゃん。こいつは強力な『魅了』がかかってる。国じゃ禁止されてる代物だがね」
「いいのよ、バレなきゃ」
リナは震える手で小箱を受け取った。
これさえあれば、ディーン様も、カイル先生も、私のもの。
アリアなんかに負けない!
***
その日の夜。
公爵家の自室にて、アリアは報告書を読んでいた。
裏社会を統括する配下からの定期報告だ。
『報告:本日、学園の女生徒(特徴:ピンクブロンド、アンクバース伯爵家)に、S級呪物指定の魅了アーティファクト【愛の小箱】が売れました』
「あら」
アリアは紅茶を飲みながら眉を上げた。
リナの特徴と一致する。
そして、その呪物の出処は、アリアが先日「こんな物騒なもの、市場に出回ったら迷惑だから回収しておいて」と指示し、保管庫に入れておいたはずの在庫の一つだった。
(……あの店の婆さん、また勝手に在庫を横流ししたわね。後でシメておかないと)
アリアはため息をついた。
魅了のアーティファクト。
それを使えば、人の心を強制的にねじ曲げ、操ることができる。
だが、その代償として使用者の精神も蝕まれ、最終的には廃人になるという曰く付きのアイテムだ。
(リナさん、そんな危ないものを使ってまで……。まあ、自滅するなら止める義理もないけれど)
しかし、もしそれをディーンやカイルに使われたら面倒だ。
特にディーンは、せっかく鍛え上げた「優秀な下僕(兼・盾)」なのだ。壊されては困る。
「……仕方ないわね」
アリアは報告書を燃やし、立ち上がった。
リナがそれを誰に使うつもりなのかは明白だ。
アリアはインベントリから、対呪い用の最強装備『聖女の守り(真)』を取り出した。
「せっかくの学園生活、もう少し楽しませてもらわないと」
リナの「起死回生の一手」は、すでにアリアによって完全に把握されていた。
翌日、運命のプレゼント渡しイベントが幕を開ける。




