野外演習という名の乱獲祭り
王立魔法学園が管理する屋外型ダンジョン『緑の迷宮』。
広大な森林エリアと、地下へ続く洞窟エリアからなるこの場所は、生徒たちの野外演習に最適な場所――のはずだった。
演習開始前。
森の奥深く、一般生徒が立ち入らないエリアにて。
ディーンは、手のひらに乗った赤黒い宝石のような物体を見て、ガクガクと震えていた。
「ア、アリア……これ、本当に使うのか?」
「ええ。広すぎて魔物を探すのが面倒なんですもの」
アリアは準備運動をしながら涼しい顔で答える。
それは、アリアが裏社会のコネクションを使って入手した禁断の魔道具『深淵の呼び鈴』。
起動すれば、広範囲の魔物を強制的に引き寄せ、さらに凶暴化(バーサーカー状態)させるという、国が指定するS級危険物だ。
「でも、これを使ったら……このエリアが地獄になりますよ!?」
「大丈夫よ。私たちがいる場所が地獄になるだけだから」
「僕もそこにいるんですけど!?」
「いいから置いて。早くしないと演習が終わっちゃうわ」
アリアに睨まれ、ディーンは泣きながらアーティファクトを地面に設置した。
そして、アリアが魔力を流し込む。
ブォン……!
不吉な波動が森全体に広がっていく。
***
一方、正規ルートを進むリナ。
彼女は茂みに隠れながら、今か今かと待ち構えていた。
(さあ、来なさい! モンスターの暴走! ここで私がピンチになって、ディーン様が助けに来て……!)
しかし。
「……来ない」
10分経過。
30分経過。
本来ならスライムやゴブリンが出てくるはずの浅いエリアですら、静まり返っている。
小鳥のさえずりすら聞こえない。
「ど、どうなってるの? バグ?」
リナが困惑して草むらから顔を出すと、遠くの茂みがガサガサと揺れた。
(来たっ!)
と期待したのも束の間、そこから飛び出してきたのは、血相を変えて逃げていくゴブリンの群れだった。
彼らはリナには目もくれず、一心不乱に森の奥――リナは知る由もないが、アリアたちがいる方角へ走っていく。
まるで、何かに吸い寄せられるように。
「えっ……無視!? ちょっと、待ちなさいよ!」
***
「先生、妙です」
「ああ……魔力の流れがおかしい」
本部テントで待機していたカイル先生は、眉間にシワを寄せていた。
探知魔法の反応が異常を示している。
ダンジョン内の魔物たちが、まるで渦潮に飲み込まれるように、一点に集中して移動しているのだ。
しかも、その中心地点にいる魔力反応は――
「……チュールか」
カイルは眼鏡を押し上げた。
(彼女なら大丈夫だろうが……いや、一体何をしているんだ?)
***
そして、渦中の中心地。
「ギャオオオオオオ!!」
「グルアアアアアッ!!」
そこは、まさに地獄絵図だった。
オーク、オーガ、マンティコア、さらには地下深くにいるはずのキメラまでもが、充血した目で押し寄せている。
バーサーカー状態で理性などない。ただ殺戮を求めて密集している。
だが、その中心で。
「『雷轟』!」
ドガァァァァァァンッ!!
アリアが指を掲げると、極太の雷が雨のように降り注いだ。
密集している魔物たちは避けることもできず、次々と黒焦げになっていく。
「ふふっ、効率最高! 経験値バーが凄い勢いで伸びていくわ!」
「ひぃぃぃ! こっちに来るなあああ!」
アリアが歓喜の声を上げる横で、ディーンは必死に剣を振るっていた。
漏れた魔物が襲いかかってくるのを、泣きながら撃退しているのだ。
「いい動きよディーン様! その調子で『回避スキル』と『精神耐性』を上げましょう!」
「帰りたいいいいい!」
アリアのインベントリには、見る間にレア素材や魔石が吸い込まれていく。
さらに、大量虐殺ボーナスにより、新たなスキル『殲滅者』や『魔物使いの天敵』といったレアスキルも獲得していく。
「あー、楽しい。やっぱり野外演習はこうでなくちゃね」
アリアはウハウハ顔で、次なる極大魔法の詠唱(無詠唱だが雰囲気出し)に入った。
リナが待ちぼうけを食らっている間に、ダンジョンの生態系は壊滅的な打撃を受けていたのだった。
アリアはざまあしてるつもりはないし、ざまあする予定もないのですが…全てがざまあになっていく…特にディーンはトラウマものの経験をこれでもかと植え付けられていると言う…巻き戻し前のアリアが今のアリアを見たらどう思うのでしょう…笑




