学園制圧(本人はレベル上げ中)
入学から一ヶ月。
王立魔法学園には、奇妙な日常が定着していた。
【座学の時間】
「……この古代魔術式における魔力変換効率の最適解は?」
「はい、先生。第三項のルーン配列を反転させ、触媒にミスリルを用いることで効率を15%向上可能です」
アリアが完璧な回答を述べる。
老教授は感動に打ち震え、眼鏡を外して涙を拭った。
「す、素晴らしい……! 学会でも議論されている難問を、こうもあっさりと……! しかも驕る様子もなく、真摯に学問に向き合うその姿勢……まさに学生の鑑!」
「恐縮です」
アリアは殊勝に頭を下げる。
だが、その脳内では別の計算が行われていた。
(よし、『古代語解読』スキルの熟練度が上がったわ。この調子で座学をコンプリートすれば、隠しスキル『叡智の図書館』が解放されるはず……!)
彼女にとって授業は、知識を得る場ではなく、スキルの熟練度稼ぎの場だった。
その貪欲な姿勢が、教師たちには「類稀なる探究心」と映っているのだから始末が悪い。
【実技の時間】
「次は的当てだ。動く標的を魔法で撃ち抜け」
カイル先生の授業。
他の生徒が苦戦する中、アリアは指先一つで標的を全弾命中――いや、消滅させていた。
「『風弾』」
シュンッ、という音と共に、魔法で強化された標的の人形が粉々に砕け散る。
しかも、最小限の魔力で、最大の威力を出すよう計算され尽くした一撃だ。
「……完璧だ、アリア。君の闇魔法制御も見事だが、風魔法の練度も異常だな」
カイルは、もはや教師というより崇拝者の目でアリアを見ていた。
アリアの使う魔法を見るだけで、彼の魔法研究は何年分も進むのだ。
「ありがとうございます、カイル先生。先生の授業のおかげで、また新しい発見がありましたわ」
(魔力消費を抑えつつ貫通力を上げるコツ、掴んだわ。『省エネ戦闘術』ゲットね)
アリアの言葉に、カイルは頬を染めてコクコクと頷く。
「う、うん。私も……君から学ぶことが多いよ……」
【教室の片隅】
そんなアリア無双を、リナは爪を噛みながら見ていた。
(おかしい……絶対におかしい!)
リナの机の上には、攻略メモがびっしりと書かれたノートがある。
『カイル先生:孤独を癒やすイベント』→ 失敗(アリアが力でねじ伏せた)
『図書館イベント』→ 失敗(アリアが全蔵書を読破済みで、司書とマニアックな会話をしていて入れなかった)
『食堂イベント』→ 失敗(アリア親衛隊が壁を作っていて近づけない)
(私のイベントが、ことごとくアリアに潰されてる……! しかもアリアに悪気がないのが一番タチ悪い!)
リナはディーンの方を見た。
彼はアリアの隣で、教科書を開いて予習をしている。
その横顔は真剣だが、時折アリアの方を見ては「はぁ……」と深いため息をついている。
(ディーン様も、アリアに怯えてるだけじゃない。完全に『尻に敷かれてる』わ……)
このままでは、ヒロインの座どころか、モブ以下の存在になってしまう。
リナは焦った。
そして、禁断の果実に手を伸ばす決意をする。
(こうなったら……次の『野外演習』。あそこで起きる『モンスター暴走イベント』を利用して、吊り橋効果を狙うしかないわ!)
本来なら生徒が危機に陥る危険なイベントだが、背に腹は変えられない。
リナの瞳に、危うい光が宿る。
一方、アリアはそんなリナの視線に気づいていたが、意に介していなかった。
(あら、リナさん。随分と熱心にこちらを見ているわね。……もしかして、私のレベル上げの秘密を知りたいのかしら?)
アリアは勘違いしたまま、次の授業の予習(という名のスキル獲得条件確認)に戻るのだった。




