闇より暗き、その実力
王立魔法学園のクラス分けは、実力主義に基づいている。
当然のように、アリアとディーン、そしてリナは、最優秀者が集まる「Sクラス」に配属された。
教室に入ると、すでに独特の緊張感が漂っていた。
アリアが席に着くと、周りの生徒たちが一斉に姿勢を正す。
リナは少し離れた席から、唇を噛んでアリアを睨んでいた。
(まだよ……まだ負けてないわ。次は担任の先生攻略イベント!)
リナの脳内データベースによれば、このSクラスの担任は、攻略対象の一人であるカイル・ゼノス。
希少だが忌避される「闇魔法」の使い手で、国に首輪をつけられたような立場の陰気な青年だ。
彼を唯一肯定し、光を当てるのがヒロインの役目なのだ。
ガラッ、と扉が開き、カイルが入ってきた。
ボサボサの黒髪に、目の下のクマ。猫背で覇気がない。
まさに「陰キャ」を絵に描いたような男だ。
「……ホームルームを始める。担任のカイルだ。……よろしく」
蚊の鳴くような声。
教室の空気が少し緩んだ。
すると、一人の男子生徒――とある伯爵家の三男あたりだろうか――が、鼻で笑って声を上げた。
「へぇ、闇魔法使いが担任かよ。気味が悪いな」
「そうだそうだ、呪われるんじゃないか?」
クスクスという失笑が広がる。
カイルは表情を変えず、ただ俯いた。
慣れているのだ。この蔑みに。
(来た! ここよ!)
リナが立ち上がろうとした。
「そんなことありません! 先生の魔法は、夜空のように美しいです!」
そう叫んで、彼の閉ざされた心に一筋の光を――
「『闇よ』」
リナが口を開くより早く、凛とした声が響いた。
次の瞬間。
ドォォォォン……!
教室全体が、漆黒の闇に飲み込まれた。
窓からの光も、魔道具の明かりも、全てが遮断された完全なる「無」の世界。
さらに、肌を刺すような重圧と、本能的な恐怖が全員を襲う。
「ひぃっ……!?」
「な、なんだ!? 何も見えない!」
揶揄していた男子生徒の悲鳴が聞こえる。
カイルもまた、目を見開いていた。
(これは……闇魔法? いや、ただの闇魔法じゃない。空間そのものを侵食する、最上位の『深淵』クラスの……!)
「誰かしら? 闇魔法を『気味が悪い』なんて、勉強不足なことを言うのは」
闇の中から、アリアの声が響く。
冷たく、しかし心地よい響き。
カイルが指を鳴らして闇を払おうとするが、全く解除できない。彼の魔力を遥かに凌駕する術式で固定されているのだ。
「闇魔法は、全てを包み込み、安らぎを与える慈愛の力。そして同時に、愚か者を無に還す最強の力よ」
パチン。
アリアが指を鳴らすと、闇が一瞬にして晴れた。
教室の中心には、涼しい顔をしたアリアと、腰を抜かして失禁寸前の男子生徒がいた。
そして、アリアの背後には、闇魔法で作られた巨大な黒龍の幻影が、ゆらりと揺らめいて消えていった。
「……先生の魔法を馬鹿にするということは、この程度の初歩的な闇魔法も制御できない未熟者だと自己紹介しているようなものですわよ?」
アリアはニッコリと微笑んだ。
その笑顔は、聖母のように優しく、同時に逆らえば死あるのみという魔王の圧を放っていた。
カイルは、ポカンと口を開けてアリアを見つめていた。
(初歩……? 今のが……?)
忌み嫌われてきた自分の力を、ここまで美しく、そして圧倒的な暴力として行使する存在。
彼の心の闇に光が差したのではない。
より深く、強大な「闇の王」が現れ、彼をひれ伏させたのだ。
「……あ、アリア様……すごいです……」
「闇魔法って、あんなに格好いいものだったのね……!」
教室の空気は一変した。
蔑みは消え、代わりに畏怖と尊敬がカイル(というより闇魔法そのもの)に向けられる。
リナは、中腰のまま固まっていた。
(う、嘘でしょ……? 私のセリフ……言う隙すらなかった……)
しかも、「美しい」なんて言葉より遥かに強烈な実演で、カイルのコンプレックスを粉砕してしまった。
「……はは」
隣の席で、ディーンが乾いた笑い声を漏らした。
その目は、悟りを開いた僧侶のように遠くを見つめている。
「アリアは光も闇も、全属性の極大魔法が使えるからね……。先生、気にしなくていいですよ。アリアは規格外ですから」
カイルは震える手で眼鏡の位置を直した。
彼の瞳には、アリアへの興味と、底知れぬ恐怖が混在していた。
こうして、また一人、攻略対象の心が(変な方向に)アリアに奪われてしまったのである。
別にアリアは先生を下僕化しようと思ってはいません。下僕は4人で十分…でも増えちゃう下僕…




