閑話 怪物たちの休息と、勘違いの連鎖
アリアとディーン、そしてベルンたちが『王家の墓所』を攻略している頃、バスク公爵家と王宮では奇妙な変化が起きていた。
【バスク公爵家・当主の執務室】
「……おい、見たか昨日のベルンを」
「ええ……あなた。あの子、素手で岩を砕いていましたわ……トレーニングだと言って」
バスク公爵と夫人は、顔面蒼白でひそひそと話し合っていた。
かつて冷遇していた娘アリアは、今や国一番の英雄(と書いて怪物と読む)になり、期待していた息子ベルンは、その怪物の忠実な下僕兼戦闘狂へと変貌してしまった。
「あいつら、俺たちを見ると『お父様、まだ現役ですか? レベル上げ手伝いましょうか?』って聞いてくるんだぞ……」
「殺す気ですわ! あの子達の『手伝い』なんて、私達には死刑宣告と同じです!」
「早く……早く引退しよう。領地の片隅で、隠居して畑でも耕そう……」
かつて傲慢だった公爵夫妻は、今や完全に子どもたちの覇気に飲まれ、早期リタイアを夢見るただの小市民となっていた。
【アリアの部屋】
「アリア様! またドレスの裾を切ってしまわれたのですか!?」
乳母の悲鳴が響く。
鏡の前には、最高級のシルクで作られた夜会用のドレスを、大胆に膝上丈に改造したアリアが立っていた。
スリットも深めに入っており、太ももにはナイフホルダーが装着されている。
「だって動きにくいんだもの。もし舞踏会中に暗殺者が来たらどうするの?」
「来ません! そしてアリア様ならドレスのままでも撃退できます!」
メイドたちが泣きながら裁縫道具を取り出す。
彼女たちは、赤ん坊の頃からアリアを見ている数少ない理解者だ。はじめは腫れ物を触るように接していた彼女たち。アリアが時折見せる、甘いお菓子を食べた時のとろけるような笑顔や、兄に頭を撫でられた時の(満更でもない)表情を知っているからこそ、彼女たちはアリアを恐れず、むしろ溺愛していた。
「もう……せっかくの可愛らしいデザインが台無しですわ。次は絶対に、鉄の糸で縫いつけてやりますからね!」
「ふふ、受けて立つわ」
アリアは楽しそうに笑う。この平和な時間も、彼女にとっては悪くないものだった。
【王宮・王の執務室】
「素晴らしい! ディーンの顔つきが変わったぞ!」
国王は、息子の成長に涙を流していた。
かつては温室育ちのヒヨッコだったディーンが、今では常に周囲を警戒し、物音ひとつで臨戦態勢をとる戦士の顔つき(実際は極度の怯えとPTSD)になっている。
「これも全てアリア嬢のおかげだ! 彼女が厳しく指導してくれたからこそだ!」
「ええ、本当に。彼女は学問も完璧で、お妃教育など必要ないレベルですわ」
王妃もまた、アリアを絶賛していた。
アリアの指導が「ダンジョンに放り込んで放置」「ボス部屋に閉じ込めて鍵をかける」といったスパルタ教育であることは、王夫妻の耳には届いていない(ディーンが怖くて言えない)。
「よし、こうなったらアリア嬢にも帝王学を学ばせよう! ディーンと共に、国の頂点に立つ者としての全てを!」
その決定を聞いた時、アリアは思わずガッツポーズをした。
『新スキル解放:【覇王の威圧】』
『シークレットスキル:【国庫掌握術】』
『称号:【影の支配者】』
帝王学の講義を受けるだけで、本来なら習得不可能なレアスキルが次々と解放されるからだ。
(ふふっ、最高ね。知識も力も、全て私のものよ)
王族たちが「未来の賢き国母」と信じて疑わないその少女は、着々とこの国を、そして世界を「自分の遊び場」にする準備を整えていたのである。




